私、小さい頃から誰に教わったわけでもないのに、泳ぎは凄く得意だったの。
もしか
して、スタツアのため………………??
「………………………………どうすりゃい〜のよ!?」
とりあえず、気分を
落ち着かせようと大きく深呼吸するものの、
一向に事態は深刻なままである。
前回のスタツアで、渋谷家の浴室から眞魔国に帰ってきた私、は、
案の定、2度目のスタツアで再び出発地点に戻って来てしまったのだ。
そう、渋
谷家の浴室に………………(死)
「息子の友人が突如風呂場に………………明らかに不法侵入よね………………」
とりあえず、少しだけドアを開けて、
そこから外の様子を伺
ってみる。
ちょいとタオルを拝借 → それ
を纏ったままダッシュ →
誰にも気づかれずに有利の部屋にゴールイン!! →
有利の服を勝手に強奪☆
そんな考えが頭をよぎるものの、リスクが大きすぎ
てイマイチやる気になれない。
「途中で美子さんに出くわしたりなんかした
ら、言い逃れ出来ないし………………」
パタパタパタッ………………
徐々に、
廊下を駆ける音が近づいて来る。
「!!誰か来る!!」
とりあ
えず、一端ドアを閉めて様子を窺っていると、聞き慣れた母子の会話が聞こえて来た。
「ちゃんとあったまって来るのよ〜?」
「わ〜かってるよ!!」
美子とそんなやり取りをしながら、野球のユニフォーム姿の有利が不機嫌そ
うな顔で脱衣所に入って来た。
『有利!!有利!!』
有利にだ
け聞こえるように、精一杯小さな声
で有利の名を呼ぶ。
「??何か今、どこからともなく聞き覚えのある声が………………」
上着を脱いで洗濯機にシャツを入れようとした瞬間、浴室の方
から何かが聞こえてきたような気がした。
『有利!!こっちこっち!!』
きょろきょろと辺りを見回す有利の視界に、よく見知った顔が飛び込んで来
る。
「ん?あぁ、か。………………!?」
何故か浴室(渋谷宅)から覗く、見覚えのある顔に有利の顔が一瞬にして固まる。
「あんにょはせよ〜♪」
「ぅおっぇあぇぇぇぇぇえっ!?」
「ナイスなリアクションをありがとう☆」
「ななななな!?おまっ!!(お
前)なんっ!?(何で)ここぉっ!?(ここに!?)」
有利は大慌て
で、開きっぱなしだった脱衣所の扉を閉めた。
「ゆ〜ちゃぁん?大きな声出
して、どぉかしたの?」
「な、なんでもない!!なんでもない!!
」
有利は大きくそう叫ぶと、改めての方に向き直った。
「落ち着け、
俺!!スタツアはこういうモンなんだ!!お前だって何回も経験してるだろ!?」
「有利さん??激しく自分と戦ってるトコ悪いけど、私の存在をお忘れなく。」
有利ははっとしたようにの顔を見つめると、へなへなとその場に座り込
んだ。
「はぁ〜………………そりゃ不可抗力なのはわかっけど、何の前触れ
もなく戻ってくんのやめろよな〜」
誰にともなくぶつぶつと文句を言うと、
有利は頭を抱える。
「有利、私、今すぐ帰りたいの!!今すぐに!!」
は濡れた服のまま浴室を飛び出すと、有利の服の襟首を掴む。
「は!?」
「手伝って!!」
「そ、そんな事俺に言われ
ても………………」
「このままだと、また前みたいなことに………………!!」
の脳裏を、前回のスタツアの苦い思い出がよぎる。
「(母
さんのオモチャになったの、相当トラウマん
なってるな〜)
気持ちはわかるケド、俺だって自由に行き来できないんだって
〜。」
「私、今から浴槽に顔突っ込むから、上がってきそうになったら押し戻して
ね!!」
「は!?」
は有利を完全に無視して、さっそく
浴槽の蓋を端に寄せた。
「マジでやんの!?ちょ、ちょっとまっ!!」
そんな有利の制止も聞かずに、は勢い良く浴槽に頭を突っ込んだ。
非協力的だ〜!と、後で文句を言われても困るので、
仕方なく有利は名
前の後頭部に手を添える。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10………………
「………………?」
「殺す気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
あ!!」
「お前がやれっつったんだろ〜が!!」
「ぜぇっ!!
はぁっ、はぁっ!!仕方ないわね、次の作戦に移りましょう!!」
そ
う言うと、は洗面台の横に設置されている洗濯機に視線を移した。
「や
っぱ水で渦といえば洗濯機よね!!」
「いや〜………………これは前に俺も試そうと
したけど、やめといた方が………………」
過去の経験から有利はやんわりと
辞めるよう促すが、
は真剣な表情で勢いよく回る水面を見つめている。
「痛いのは、きっと一瞬よね………………」
「いやいやいや!!
もしスタツアが成功しなかったら、一瞬痛いどころかそのまま永眠しちゃうか
ら!!」
洗濯機のふちに手をかけたの腕を、有利は思わず引き寄せる。
そんなやりとりをしていたためか、も有利も人が近づいて来る音など、
全く気にも止めていなかった………………
「ゆ〜ちゃん、ユニフォームを洗う時にこれも一緒に………………」
ドサッ
脱衣所の扉を開くと、何故か上半身裸の息子
(難しいお年頃)と、
何故か全身びしょ濡れの少女(息子のガールフレンド)の、も
み合う姿………………
衝
撃的な画を見てしまった少年の母、渋谷美子は、手にしていた数枚のタオルを床に落とす
と、
脱衣所の扉を開けたまま固まってしまった。
「かかかかかかか
かか母さん!!ええっとですね、これには海よりも深く、山よりも高い理由があり
まして〜」
「………………ゆ〜う〜ちゃ〜ぁ〜ん!?」
「は
いぃっ!!」
やっと気を取り直した美子は、有利との顔を交互に
見つめた後、
洗面台の横にある棚からタオルを取り出した。
「ちゃ
んはとりあえずお風呂に入って、早くあったまってちょうだい。
はい、このタオル
使って。で、ゆ〜ちゃん?」
「はいっ!!」
「あなたにはマ
マが納得出来るまで、コトの成り行きを最初から最後までみっちり詳しく
話してもらいますからね!?さっ、こっちいらっしゃい!!」
そう言うと
美子は、有利の左耳を引っ張りながら脱衣所を出ていって
しまった。
その後、どうにかして
「が足を滑らして川に落ちた所に偶然有利が通りかかり、
渋谷家の迷惑になるからと遠慮するを無理矢理連れてきた」
という
シチュエーションをゴリ押しした有利のお陰で、
「ちゃん、そんなに川が好きな
の?いくら好きでも、
足を滑らす程近くに寄っちゃ危ないわよ?」
と、イマイチ納得出来ていない美子に、はしつこく問いつめられるのであった………
………
そしてそのはというと、ここまで
散々苦労したにも関わらず、
またもや前回同様、あっさり夜中にトイレからスタツア
してしまうのであった………………
ー
母さん、もう完璧にお前をうちの嫁にするつもりらしいぞ?俺もう知んね〜かんな!!ー
[あとがき]
久々に50のお題です☆
実を言うとこのお話は、半年前に
は8割方書きあがってたんですが
どうしても後の2割がうまくいかなくって、今まで
携帯の中で眠っていました(笑)
裏話なんですが、当初は、のお話でヒロインが地球に
いるとウルリーケが宣告した続きにこのお話が続く予定でした^^