空、雲、風、花、草
この星の全ての
ものに、君との思い出がつまっているんだ
「グウェンダルか
ら連絡があって、俺とに至急、ヴォルテール城まで来て欲しいそうだ。」
自室で本を呼んでいたの所に、コンラートがそう言って訪ねて来たの
は、
そろそろ日も落ちようかという夕暮れ前のことだった。
「グウェン
が?どうかしたの?」
「さぁ?そればっかりは、俺にもわからないよ。」
コンラートは困った顔で頭をかく。
「とにかく、今から下に馬
を用意して来るから、お前も準備が出来次第、城門まで来てくれ。」
「わかった
わ。」
がそう頷くと、コンラートもこくりと頷いて、部屋を
あとにしたのだった。
「どうして私とコンラートが呼ばれたのかしら?」
今までにはなか
った事態に、は一抹の不安を感じつつも、慌てて準備に取りかかったのだった。
「2人乗りして行くの?」
が準備を終えて城門に到着すると、既にコ
ンラートが1頭の馬を率いて待っていた。
てっきり2頭の馬で行くのだと思っていた
は、用意された1頭の大きな馬を見て目を丸くした。
どんな名馬で
も、大の大人を2人も乗せていては、少なからずスピードは落ちてしまう。
急ぎの用
ならば、2頭の馬で各が駆けた方が早いだろう。
「は馬術に関して
は、ユーリ並だからな。お前に手綱を握らせてたら、日が暮れてしまう。」
「失礼
ね!!ユーリよりはマシよ!!」
心外そうなの台詞に、コンラート
“それはどうだか”と肩をすくめる。
「ちゃんと一人で馬に跨げるか?昔み
たいに俺がかつぎ上げようか?」
「もう!!1人で乗れるわよ!!」
こ
うしてを馬に跨らせた後、自分もその後ろに
飛び乗った。
「時間がないから、少しとばすぞ?しっかり捕まって!!」
「ぅわっ!!」
急に走り出した馬のスピードについていけ
ず、の背中がコンラートの胸に思い切りぶつかった。
「コンラート、鍛
えすぎ!!何でこんなに胸が固いわけ!?」
「の背中は柔らかいから、俺は気持
ち良かったよ♪」
「んなコトは聞〜い〜て〜な〜い〜!!!!」
は真っ赤になって、必死に暴れる。
「こらこら。そんなに
暴れたら落ちるだろ?」
「くくくくっつくな!!腰に手を回す暇があったら手綱
を握れ〜!!!!」
「これくらい滑らかな道なら、片手で十分☆ま、に
は不可能な芸当だけど?」
「な!?私にだってそれくらい!!」
「じゃあ、代わ
る?」
そう言うとコンラートは、ニヤニヤと笑いながら、手綱をの手
元に持って行った。
「………………………………ゴメンナサイ」
「素直でよろしい☆」
そんなやりとりをしながら、数刻だけ馬を走らせた所
で、は少し違和感を感じ始めた。
「………………コンラートさん?」
「どうしました、さん?」
「私の記憶によりますと、この道はヴォルテー
ル城に向かう道ではないと思うんですけど?」
「あぁ、もうバレちゃったか。」
「コンラート!?」
驚いて振り返ったに、コンラートは悪びれる様子
もなく微笑みかける。
「“嘘も方便”っていうコトワザがあるだろ?あぁで
も言わないと、
お邪魔ムシたちが簡単にお前を連れ出させてくれないからな。」
現在、ユーリは地球に帰っていて不在なので、コンラートの言うお邪魔ムシ
とは、
言わずと知れた“ワガママぷ〜”と“幼なじみ其の2”のことを指しているの
だろう。
「じゃあ、グウェンの至急の用事は?」
「グウェンダルなら、
今ごろ編み物に熱中している頃かな☆」
「はぁ………………」
にこやか
にそう告げたコ
ンラートに、は盛大なため息を返した。
「そこまであっさり白状され
ると、怒る気も失せたわ。」
はゆっくりと前に向き直る。
「で?どこに向かってるの?もうすぐ日も暮れるっていうのに。」
「着
くまでのお楽しみ♪もうじき到着するよ。」
そう言いながら、コンラートはスピードを緩めることなく、楽しそうに馬を走らせてい
る。
今更だが、コンラートと二人きりで出かけるなんて、物凄く久しぶりの
ことだ。
お互いに仕事が忙しく、たまの休みがあっても、お邪魔ムシたちが
何かとにくっついていたので、
2人きりの時間などまずなかったのだ。
まぁ、今やらねばならない仕事があるわけでもないし、たまにはこんなのも
良いか、
と、はコンラートに身を任せることにしたのだった。
「凄い………………!!!!」
目的地に到着するなり、コ
ンラートは早速、馬から飛び降りた。
「よし、ギリギリ間にあったみたいだ。ほら、
。いつまでも見とれてないで、先に馬から降りたらどうだ?」
言葉数
少なく、じっと目の前の風景に釘付けになっているに、コンラートは右手を差し出
した。
「あ、えぇ、ありがとう。」
は、はっと気がつい
たようにコンラートの手を借りて馬から飛び降りる。
普段はあまり足を踏み
込まない森を抜けた瞬間に、一気に視界が開けたかと思うと、
2人の目の前に広がっ
たものは、地平線いっぱいに広がるオレンジ色の空と、沈みゆく夕日だった。
「素敵………………空も雲も、草も木も花も、全部がオレンジ色だわ………………」
優しい色が、全てのものを暖かく包
み込んでいる。
そしてそれは、人の心をも優しく包み込む。
「15年前、お前がいなくなった時に、俺は
国中を隅から隅まで探し回った。ここは、その時に見つけたんだ。」
コンラートは目を細めて眩しい空を見上げた。
「いつか、お前が帰って来た
ら、絶対に連れて来ようと思った。
いつになるかは、わからない。でも、もう一度
お前とこの景色を見たいと思ったんだ。」
もしかしたら、はもう2度
と戻って来ないかもしれない。
いや、戻って来たとしても、到底俺を許して
くれるとは思えない。
誘っても断られるに決まってる。
でも、どうしても諦めきれなかったんだ。
「コンラート、ありがとうね。連れてきてく
れて、本当にありがとう。」
「いや、お礼を言うのはこっちのほうだ………………あ
りがとう。」
「??変なコンラート。」
ふと気づくと、どちらからとも
なく、手を繋いでいた。
互いの手は、今2人を包み込んでいる太陽の温もり
よりも、ずっとずっと暖かかった。
言葉もなく手を繋いで佇んでいる若い2
人を、周りの草や、木や、鳥たち、
全ての生き物たち
が優しく見守っていた。
ー
君が隣にいるだけで、世界が明るく優しい色に変わるんだー
[
あとがき]
キリリク94149「コンラートの甘々 二人で遠乗り」で
した☆
リクしてくださった絵里様、ありがとうございました!!
とてもご期待に
添えたように思えないのですが(おい!!)、少しでも気に入っていただけたら幸せです♪