その時、確かに君の心が壊れる音を聞い たんだ。
「コンラー
ト隊長とスザナ=ジュリアって、かなりお似合いのカップルだよな〜」
「は?」
同僚の馬鹿な噂話を適当に聞き流していた俺は、ふいに耳に入ったその言葉
を聞いた瞬間、呆然とした。
「何、お前知らねぇの?最近もっぱらその噂で
持ちきりだぜ?」
俺の不思議そうな顔を見て、その男は少し得意そうに話し
出した。
「何でも隊長がスザナ=ジュリアにメロメロらしいぜ?最近よく一
緒にいるしな。
俺、今日も一緒に中庭を歩いてるのを見たよ。本当に絵になるカッ
プルだよな〜☆」
「………………さぁな。」
──────────このことを、あいつは
知ってるのだろうか?
ペラペラと喋る男の話を聞いているふりをしなが
ら、俺はそんなことばかり考えていた。
ふいに思い立った俺は、まだ話した
そうにしている男に別れを告げ、焦る想いを押さえながら歩きだした。
「ギーゼラ、が何処にいるか知らない
か?」
「ヨザック?なら休憩中だから多分中庭だと思うけど、何か急用で
も?」
滅多に救護室などには顔を出さないヨザックの突然の訪問に、ギーゼ
ラは驚きを隠せないようだった。
「………………隊長とスザナ=ジュリアの
ことだけど、あいつは知ってるのか?」
書類に向かっていたギーゼラの、ペ
ンを持つ手が一瞬止まる。
「………………あの子が何も言わないから、私は
何も聞かないわ。」
「そうか………………。仕事中に邪魔して悪かった。」
ヨザックはきびすを返すと、急ぎ足でドアに向かう。
「………………ヨザック。私だけは、何があってもの味方よ。」
部屋を出よう
と背を向けたヨザックに、ギーゼラは凛とした声で話しかけた。
「………………お前“だけ”じゃないさ。」
そう。
例え世界がナ
マエの敵になろうとも。
………………例え“彼”が敵になろうとも。
「“俺も”だ。」
俺には君しかいないから。
君が俺の全てだから。
──────────その時、ギーゼラが優しく微笑んでいたことを、俺は
知らない。
ギーゼラに言われた通り中庭に足
を運ぶと、は木陰の下でぼんやりとたたずんでいた。
「?」
「え?あ、あぁ。ヨザ………………」
の視線の先には、幸せそう
に微笑み合う、美しい女性と凛々しい男性の姿。
「隊長と………………スザ
ナ=ジュリア?」
「………………あぁ、そういえばヨザはジュリアと直接面識はない
んだっけ?」
は必死に何でもない風を装おうとした。
でも俺に
は、逆にそれが痛々しかった。
「何回か見かけたことはあるけど、話したこ
とはないな。」
「今度から私の上司になる人よ。」
「は!?」
あまりにも
突拍子のない台詞に、ヨザックは思わず大きな声で叫んでしまう。
「“隊
長”からの左遷命令よ。“俺の代わりにジュリアを守ってくれ”ってさ☆」
「………………一発ぶん殴ってくる。」
「馬鹿!!余計なことしないの!!」
二人の元へ駆け寄ろうとしたヨザックを、が慌てて引っ張り戻
す。
「どうしてそう喧嘩っぱやいのよ?それよりさ、お腹すかない?
お
ごるから、久しぶりに何か食べにいこうよ。」
はヨザックの腕をしっ
かりと掴むと、二人に背を向けて歩きだした。
「ちょっ、!!」
ヨザックの制止の声も聞かず、はどんどん先に進んでいく。
「だからちょっと待てってば!!」
ヨザックは勢いよく
の腕を引っ張り、自分の胸に抱え込んだ。
「泣いてるくせに無理矢理笑う
な。」
「!?泣いてないわよ、別に
!!」
「泣いてる。」
「泣いてない!!」
「いぃや、泣いて
る。」
「泣いてないってば!!」
「泣いてるよ、お前の心が。」
「!?」
の小さな肩が一瞬震えたかと思うと、
はヨザックを思い切り突き飛ばした。
「………………泣いてなんかいない
わ。」
は小さくそう呟くと、ヨザックを置いて一瞬で走り去ってし
まった。
「………………やっぱり、俺じゃ無理なんだな………………」
“あの事件”が起こったのは、そのすぐ後の
ことだった。
一度に色んなことが起きた。
ジュリアの戦死。
隊長の
失踪。
隊長が戻って来たと思ったら、今度はが謎の失踪。
がいなかった15年の間、俺は片時も心休まることはなかった。
そう、
ある日突然、
が新しい魔王陛下とともにひょっこりと戻って来るまでは………………。
がこちらに戻ってからは、ゆるやかに時は過ぎ、穏やかな日常が戻ったかのように思え
た。
しかし、本当にそうだろうか?
本当
に、ジュリアが死んだことで、の恋はハッピーエンドを迎えることが出来たのだろ
うか?
そんな筈がない。
もしそうなら、何でいつまでもあんな顔をして
るんだ?
どうしてそんな悲し気な瞳で、隊長を見つめているんだ?
で
も、どんなに君を想っていても、君を笑顔に出来るのは俺じゃない。
「ヨザ?ど〜したの?ぼ〜っとしちゃっ
て。」
「あ、あぁ。ちょっと色々考えごとしててな。」
今はもう、ただ
君の幸せを祈るばかり。
「。」
「?なぁに?」
「お前、今、
幸せか?」
は目をまんまるにして不思議そうに俺を見つめると、満面
の笑みではっきりと答えた。
「幸せよ。とっても幸せ!!だって、こんなに
も沢山大切な人がそばにいるんだもの!!」
俺の恋は叶わない。
でも、終わら
せることなんて出来ないんだ。
ー
あいつの恋も叶わない。あいつの恋も終わらないー
[
あとがき]
かなり久々の更新です(汗)
タイトルは幸せ気分満開なのに、内容はか
なり暗さMAXです(^_^;)
「ジュリア関係のシリアス」とリクをくださった万里様、
ありがとうございます。
コンラートのシリアスとのことだったのですが、
こちら
の都合でヨザック視点で書かせていただきました。
本当に申し訳ありませんm(_
_)m
100%御希望にそうことは出来ませんでしたが、気に入っていただけると幸せ
です!!