俺の世界の中心は、いつだって野球だっ た。
そう
お前に出会うまでは











 29 スポーツ〜夢と現実の狭間 〜











俺は生まれてからしばらくの間、 お袋の趣味で女の子の格好をさせられていた。
今考えると普通の親の思考じゃ考え られないような事だけど、そんな常識、うちの母親には通用しない。


まぁ、俺自身物心がつくまでそれが普通だと思ってたから、
別段問題はなかったんだ けど。


ただ、その反動からか、日本に来てからの俺は、
野球漬けのやん ちゃ坊主になってしまった。
寝ても覚めても野球一色。
昼間はチームでボールを 追いかけて、夜は親父とナイター中継。
そんな俺の夢は、勿論プロの野球選手になる こと









だった。


そう。
子供の 頃は馬鹿みたいに信じてたんだ。
信じてさえい れば、きっといつか叶うんだって。


パイロットにだって
サッカー選手に だって
アイドルにだって
ピアニストだって
なんにだって、なれるんだって。


小学生の時に仲が良かった友達は、
宇宙飛行士になりたいって言って た。
少し気になってた隣りの席の女の子は、
バレリーナになりたいって言って た。


俺の場合は、ライオンズに一位指名されて即一軍入り。
その後メ ジャーに移籍して、金パツの奥さんでも貰って
そのままアメリカに永住するんだ!
とか
夢みたいなことが、本気で現実になると思っていた。


でも、現 実は厳しくて。
成長していくにつれ、段々と乗り越えられない壁が見えて来て。


壁を乗り越えようとも、壊そうともせずに
壁に沿って歩きだしてしまっ た。


いつまでも壁に沿って歩いていたんじゃ、
いつまでたっても壁は、 そのまま目の前にあるというのに。









ある日、と2人で仕事をしている時のことだった。


『軍人時代の友人 が、ずっと夢だった小説家になった』


そんな話を聞かされた。
は 何の気はなく、ただ、友人の嬉しい報告を俺に話したかっただけなんだろう。


でも俺は“夢”という単語から、不意に小さい頃の自分が思い出されて、
少し恥ずかしくなった。


「いいよなぁ〜そういうの。自分の好きなこと を、仕事にできるなんてさ。」
「そうね。彼女、諦めずにずっと頑張って来たから、 本当に良かった。」









ソンナハナシキキタ クナイ









「………………ユーリも、やっ ぱり今でもプロ野球選手になりたい?」
「へ?まぁそりゃ、なれるもんならなりたい けど、今更もう無理だろ。
 俺もいつまでも夢見てらんないし。」
「もし………………もし、ね」
「ぁ??」
「ユーリがどうしても“魔王を辞めて地球に帰りた い”って言うんなら、私、止 めないよ。」
「?急に何言って………………」
「ほら、ツェリ様だってさ、自由 恋愛旅行の為に魔王を辞めたじゃない?
 だから、ユーリも無理はする必要はないか らね?」


は、至極真面目な顔で淡々と言葉を紡ぐ。


『本 当に進みたい道を選べ』


きっと………………いや、絶対、俺の事を想って 言ってくれた言葉だ。
でも、何だか“俺が魔王をやる必要はない”って言われたみた いで、少しショックだった。


「そりゃ勿論、私個人としては辞めて欲しくな いよ?
 でも、ユーリがやっぱり野球やりたいって言うなら、」
「野球、 か………………」









今更そんなこと言うなよ。
魔王になれって、俺の作る眞魔国が見たいって、そう言ったのはお前だろ?
わ かってんの?
俺が魔王を辞めて地球に帰ったら、もう二度と会えないんだろ?



「ユーリ………………?」
「………………何でもない。」









俺の世界の中心。


そんなもん、とっくに変わってたんだ。
お 前と2人で眞魔国にやって来た、運命のあの日から


俺の世界は、とっくにに “お前”に変わってたんだ。
今更、野球漬けの生活になんて戻れない。
お前なし の生活なんて、戻れない。



















ー 夢と現実、あなたならどちらの道を進みますか?ー



















[ あとがき]
うちのユーリは基本真っ白(?)が多いのですが、
たまにはこういう黒 い部分を見せるのも良いかなと思いました☆(笑)
いつものほのぼのユーリ好きの方に は、
申し訳ない感じになってしまいました(´□`;)