「大丈夫だよ。」
君がそう
口にする度に、胸の奥がぎゅっと締め付けられるんだ。
45 口ぐせ〜頑張りやさんの君へ〜
小さい頃、何かある度に俺の所に泣
きついて来たオンナノコは
“ある時”から、全く涙を見せなくなった。
「ふぇっ………ぅえっ………コンラトォ………」
そうしゃくり上げる嗚咽の
代わりに、彼女の口から必ず出て来るようになったのは
「大丈夫だよ。」
その一言。
村の悪ガキにいじめられても
「大丈夫だよ。」
フライパンで火傷をしても
「大丈夫だよ。」
大切にしていた子猫が死んでしまったときも
「大丈夫だよ。」
君が泣き出すと、早く泣きやんで欲しい。
泣き顔なんかより、君の笑顔が見たい。
そう思った。
でも君が泣かなくなっ
てしまうと、胸にしこりが残って、いつまでも消えない。
こんなの矛盾して
いる。
彼女には泣いて欲しくない。
でも、無理をする姿もみたくない
んだ。
「大丈夫よ。」
「大丈夫じゃな
い。」
「大丈夫だってば。コンラートは心配しすぎ!」
「顔色が悪い」
と指摘した俺に、は予想通りいつもの台詞を返して来た。
「ユーリが
向こうに戻ってから働き通しじゃないか。ろくに休憩もとってないんだろう?」
「これくらい平気だってば。私は大丈夫だから、あなたも早く仕事に戻ってちょうだい。」
はこれ以上言い争っても埒が明かないと思ったのか、俺に背を向
けて仕事を再開する。
「………………お前が大丈夫って言うと、俺が大丈夫
じゃなくなるんだ。」
「?」
「とにかく、残りの仕事は俺が片付けておくから、少
し休憩しろ。命令だ。」
「コンラートはもう私の上司じゃないでしょ?私は有利の命
令しか聞かないから。」
俺の『命令』という言葉が気に食わなかったのか、
は唇を尖らせて外方を向く。
本当、いつまでたっても子供みたいな拗ね方だ。
「なら“お願い”だ。一時間だけで良いから休憩してくれ。」
「何よそ
れ………………」
あ。ちょっと揺らいだな。
後、もうひと押し。
は頑固で意志は強いけど、押して押して押しまくると最後は折れてし
まうんだ。
「が首を縦に振るまで、俺はここから一歩たりとも動かな
いからな。
いいのか?俺が働かなかったら、困るのはお前だぞ?」
「う」
「グウェンダル、怒るだろうなぁ。俺が放棄した仕事が全部グウェンダルにいくんだから
な。
が少〜し休憩してくれるだけで、それらが全部防げるんだけど?」
「わ〜かった!降参
!そこまで言うなら休むわよ。」
両手を肩の辺りまで挙げて、小さく『降
参』のポーズを取る。
「まったく………………コンラートは言い出したら聞
かないんだから。」
「それはお互い様。」
はゆっくりと席を立つ
と、応接用のソファにごろりと横になる。
「………………少ししたら、起こ
して。」
「わかった。」
「絶対よ?」
「わかってるよ。そんなに俺って信用
出来ないか?」
俺が苦笑いすると、は小さく笑って、ゆっくり瞳を閉
じた。
むず痒そうに顔を歪ませるから、目元にかかる前髪をそっと払ってや
る。
少しだけ指先に触れた、柔らかな髪の感触が心地良くて、
そのまま何度か優
しく髪をすくった。
なんて幸せなひと時なん
だろう。
自然に頬が緩み、思わず溜め息が零れる。
俺は、を休ま
せたかったのではなく、
俺が、の側で休みたかったのかもしれない。
ゆっ
く
りと、2人で過ごす時間が欲しかったのかもしれない。
そう。幼い頃の様に、理由も
なくただ一緒にいたかったんだ。
しばらくそ
うしていると、はすやすやと気持ち良さそうに眠りに落ちていった。
「普段ならなかなか寝付かないくせに。やっぱり疲れてたんじゃないか………………」
たまっていた疲れが一気に押し寄せたのだろう。
そんな俺
の呟きなど届かないようで、すっかり熟睡している。
「よし。それじゃあ俺
は、約束通り仕事を片付けるかな。」
最後にの頬を優しく撫でて、
そっと額にキスを落とす。
「良い夢を………………」
小さくそ
う囁くと、ゆっくりとソファから重い腰を上げた。
ー
君が無理をしないよう、いつだって俺が見守っているからー
[
あとがき
]
またもや1ヵ月ぶりの更新です。
50のお題も残すところあと4つ!
年内中に
終わらせたいけど、多分無理でしょう…((死))