「コンラート隊長に憧れて、軍に入隊し
たんです!!」
そう言って突然私たちの前に現れた少女は、私には眩しすぎて、
目を閉じてしまいたかった………………
ヨザの話によるとその少女、アリー
は、普段はヴォルテール城でグウェンダルの部下として、
ヨザックたちと一緒に働い
ているらしい。
そんな彼女が“一般兵の兵力強化の合同訓練”という名目
で、1週間だけ血盟城に派遣されて来たことから、
全ては始まる………………。
「コンラート隊長!!剣の稽古をつけて下さい!!」
今日もア
リーの元気な声が城中に響き渡る。
「だから何度も言ってるだろう?俺は陛
下の側近であって、もう隊長じゃないんだよ。」
「………………じゃあ、コンラー
ト、さん??」
アリーは不安そうな目でコンラートを伺い見た。
「コンラ
ートでいいよ。俺は偉いわけじゃないし。」
「え!?あっ、は、は、は、は
い!!」
アリーは真っ赤な顔で、嬉しそうに笑った。
「あの子って、本当にずっとコンラートにべったりだよなぁ〜。やっぱり、コンラー
トのこと好きなのかな〜?」
執務室の窓から剣の稽古をする二人を見なが
ら、ユーリが横で仕事をするに話しかける。
「ユーリ?休憩も良いけ
ど、そろそろちゃんと仕事してよね?」
が鋭い目でユーリを睨む。
「あ、もしかしてヤキモチ?確かに普段は見てる方が恥ずかしくなる程べぇ〜ったりのコンラートが、
あの子が来てから、ほとんどんとこ来ない
もんな〜」
ユーリはここぞとばかりに、面白がってをからかう。
「………………………………ユーリ。」
「な、何だよ!?」
「刺すよ?」
「ゴメンナサイ」
ユーリは真っ青な顔で、机に向き
直った。
「………………私には関係ないことだわ………………」
は小さくそう呟く
と、自分の胸に光る指輪を、服の上からきつく握りしめた。
とアリーは、特別接触することもなく、しばらくは穏やかな日々が続いた。
しかし、アリーが血盟城に滞在する期間の終盤に差し掛かった、ある日のこ
とだった。
「さん!!ちょっと良いで
すか?」
がユーリと城内を歩いていると、突然アリーに呼び止められ
た。
「前から聞きたかったんですけど、あ、あのさんとコンラートっ
て………………その」
トウトウキタ。
「………………安心して。あなたが考
えているようなものじゃないわ。ただの幼なじみよ。」
ソウコタエルシカナイジャナイ。
「本当ですか!?良かったぁ〜!!なんだかさんって、コンラートの特別っ
て感じで少し心配してたんですよ〜」
ソ
ンナンジャナイ。ソンナンジャナイノ。
「だったら私、頑張ってみますね!!
それじゃあ!!」
そう言うと、アリーは最高の笑顔を残して、走り去って
行った。
「なんか、アリーってどことなくに似てるよな〜?ノリって
いうかテンションって言うか………………?大丈夫か?」
違う。私じゃない。
あの子は
“ジュリアに似ている”のよ。
色素の薄い柔らかなロングの髪。
強い意
志を持った瞳。
守ってあげたくなる様な、華奢な体。
フラッシュバックする。
「………………あぁそうか。この感
じ。ジュリアと出会った時と同じなんだ。」
「
?」
水面に大きな石を投げたように、鈍く、心に波紋が広がる。
頭で考えなくても、心が勝手に反応する。
アノコトナラ、
カレハシアワセニナレルカモシレナイ。
「、何で泣いてんだよ!?」
「………………ごめん。先行ってて………………」
それだけを、絞り出
すように掠れた声で呟くと、はユーリに背を向けて駆けだした。
「………………………………。」
ユーリは決意したように拳を丸めると、
とは反対方向に歩きだした。
バシッ!!!!
アリーと立ち話をしていたコンラートの頬を、ユーリ
の拳が弾き飛ばした。
「………………ユーリ!?」
コンラート
は右頬を押さえながら、全く訳がわからないといった様子で立ち尽くしている。
「陛下!!突然何をするんですか!?」
コンラートに寄り添うアリーの方を、ユーリはちらりとも見ずに怒
鳴った。
「………………が泣いてる。」
「!?何かあったんです
か!?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみろよ!!俺、前に言ったよな!?いくらコンラートでも、
を泣かしたらただじゃおかないって!!」
ユーリはそこまで一気にまくしたてると、一度大きく息をはいた。
「………………は多分俺の執務室にいる。お前が行って、おとしまえ
つけて来いよな。
それでもまだが泣くようなら、俺もヨザックもグウェンダル
もヴォルフラムも、とにかく、皆が相手になるからな!!」
いつもとは明ら
かに違うユーリを見て、ことの重大さを悟ったコンラートの表情が、
一瞬にして深刻
なものに変わった。
「………………わかりました。」
そう言っ
て走りだそうとしたコンラートの腕を、アリーが掴む。
「待ってコンラート!!今から私と新しい剣を選ぶのに、街まで付き合ってくれるって
言ったじゃない!!」
「すまない。今はそれどころじゃ………………」
「どうして!?さんは只の幼なじみなんでしょ!?彼女本人が私にそう
言ったのよ!?コンラートとは何でもないって!!」
「………………なるほど
な。そういうことか。」
アニーの台詞を聞いて、コンラートの頭の中で全て
がつながった。
「が何て言ったかは知らないが、あいつは俺の恋人だ
よ。やっとの思いで手に入れたんだ。
これ以上あいつの機嫌を損ねないでくれ。」
「あなたがそう思っていても、彼女の方は違うのよ!?彼女はあなたを信頼して
ないわ!!」
「が俺をどう想っていようと関係ない。嫌ってたってかま
わない。俺は一度あいつの手を離してしまったんだ。
信頼してもらえる筈がないんだ
よ。それでもはもう一度俺と手をつないでくれた。もう二度と離すつもりはな
いよ。」
今度こそアニーの腕を振り払
うと、コンラートは一目散に駆けていった。
「陛下!?陛下はさんが好きなん
じゃなかったんですか!?何で私の邪魔をするんです!?
むしろ、協力してくだ
さっても!!」
アリーは今度は、ユーリにくってかかる。
「………………俺の気持ちが理解出来ないようじゃ、お前のコンラートへの
想いも、所詮その程度のものだってことだよ。」
ユーリは冷たくア
ニーにそう告げると、静かにその場を立ち去った。
「………………。」
コンラートが部屋に入ると、は机に向かっ
て仕事をしていた。
「コンラート?どうしたの?ユーリなら、今グウェンの
所に………………」
「………………どうして平気なふりをするんだ?どうして何でも
ない顔をするんだよ!?」
コンラートが近寄ると、は目を伏せて呟い
た。
「………………あの子、
ジュリアに似てると思わない?」
「??アリーのことか?そんなこと、思ってもみな
かったけど?」
「似てるわ。凄く。」
はゆっくりとコンラートの
方を向いた。
「だから、“ジュリアに似ているから”俺を譲っても良いと
思ったのか?」
「………………………………。」
黙り込むに、コ
ンラートは更に詰め寄る。
「ふざけるな!!俺がそう簡単に心変わりを
すると思うか!?」
「………………一緒だと思ったの。ジュリアと出会ったと
きと、一緒だと思ったの。」
「!?」
の頬を暖かい雫が伝う。
「いつか、ジュリアがコンラートをさらって行ったみたいに、コンラー
トがまたいなくなると思ったの………………」
「奪われる位なら、自分から捨ててし
まえ、か?」
コンラートが悲しげに呟いた台詞に、は体を堅くした。
「………………ごめん。ごめん。ごめん。」
コンラートはナマ
エを抱きし
めながら、何度もそう呟く。
「約束する。俺は、決してを置いて行っ
たりしない。ずっと一緒にいる。」
「………………私の方こそ、信じられな
くて、ごめん。」
はまだ止まらない涙を、精一杯飲み込んだ。
「いや、は悪くないよ。さっきもユーリに怒られたよ。を泣か
せたら許さないって。」
「そうね。今度泣かされたら………………誰にしようかし
ら?ユーリにヨザにグウェンにヴォルフ、選り取りみどりだもの。」
は、まだ微かに涙が残る瞳でいたずらっぽく笑った。
「そんな気ないくせ
に。」
「………………その自信はどこからくるわけ?」
「自信なんてないよ。な
いからこそ強がりばっかり言って、必死にを繋ぎ止めようとするんだよ。」
そう言ってコンラートは、の額に自分の額をくっつけた。
「キスして良い?」
「………………聞かないでよね。」
恥
ずかしそうに答えたの唇に、コンラ
ートは優しいキスを落とした。
「これでわかった?」
「………………………………。」
ユーリはアリー
を連れて執務室の前で二人の話を立ち聞きしていた。
「二人の間に割り込む
隙なんてないんだよ。君も、“俺も”ね。」
「………………そうみたいですね。」
ユーリとアリーの会話は、廊下に小さく響いた後、何事もなかったように消
えていった。
ー
よそ見なんてしないで、私だけを見ていてー
[
あとがき]
アンケリク「ヒロインにライバル登場(コンラート甘々)」でした☆リクを
下さった方、ありがとうございました。
コンラートの甘々希望の方が凄く多いのです
が、私の甘々はこれが精一杯です(汗)
しかも何だか無駄に長くなってしまいました(
汗)<
もっとちゃんとした文章が書けるようになりたいです(涙)