考えるより先に、体が動く。
愛しい
君の元へと、体が走る。
「危ないっ!!!!」
誰かのそんな叫びが聞こえたと思った次の
瞬間、
何かが体に突き刺さる、鈍い音を聞いた。
「!!大丈夫
か!?」
少し先を歩いていたユーリが慌てた様子でこちらに駆け寄っ
て来る。
「私は、大丈、夫………………」
未だに自分の置かれ
た状況がよく理解出来ない。
何故、自分はヨザックの腕の中にいるのだろうか?
「ヨザ………………?」
先程まで、自分の横を並んで歩いてい
たはずのヨザックが、今は私を抱きしめたまま、ピクリとも動かない。
「!!」
つ………………と、私の首筋を暖かいものが伝った。
勿論、自分の血であるはずがない。
「ヨザ!?」
か
たく閉ざされた腕から抜け出そうと、必死にもがいた瞬間、の瞳に信じられない光
景が写った。
を抱きしめているヨザックの左肩から、天に向かって伸びている
一本の矢。
「な、何よこれ!?」
「………………だ、大丈
夫、大丈夫☆これ位、なんともない、って♪」
必死に平気そうな顔を装うも
のの、ヨザックの額を大量の汗が伝う。
「お前が、何ともなくって、良かっ
………………」
急に、自分に覆い被さるヨザックの体がずしりと重みを増し
た。
ショックで気を失ってしまったのだろう。
その時になって、やっと自分の置かれた
状況が理解出来た。
弓の訓練をしていた兵隊の矢が、手元が狂った拍子に風で流され
て飛んできたのだ。
「は、早く、医務室へ!!」
その後、すぐに周りにいた者たちの手を借り
て、医
務室までヨザックを運んだ。
ヨザックの傷口は思ったより浅く、命に別状はないと診
断されたが、
そのまま高熱を出して寝込んでしまったのだった。
「………………?」
次にヨザックが目を覚ましたのは、その3日も後
のこと。
「やぁ〜っと起きたわね!!このバカチン!!」
「ぅっわ〜(汗)仮にも命の恩人に対して、その言い方はないんじゃありません?」
起きぬけ早々、いきなり拳骨を食らわされたヨザックは、面白くなさそうに
唇を尖らせる。
「で?チャンは一体何のご用事?まさか、俺に拳骨食
らわす為に来たわけ?」
「………………約束して。」
は急に真剣
な表情になる。
「何を?」
「今後一切、私をかばったりしないっ
て!!」
「そんな約束、出来ませんね〜♪」
「ヨザ!!」
軽く流そうとするヨ
ザックに、は声を張り上げる。
「そんなムキになる必要ないっしょ?
お前は“やったぁ☆ヨザが守ってくれてラッキー♪”位に構えときゃ良いのよ☆」
「私のせいで、あなたが怪我をするのが嫌なのよ!!」
全身から絞り出す様
にそう叫んだを見て、やれやれと言いながらヨザックは自分の頭をかいた。
「もし戦が起きたらさ、隊長は陛下を守って死ぬんだろ?」
「………………?」
「で、は隊長を守る。」
は、俺の言いたいことが理解
出来ないらしく、小さく首を傾げて訝しげな表情を浮かべている。
「じゃぁ、お前は誰が守ってくれるのさ?」
その問いに一瞬だけ面食らった
様子を見せたものの、はすぐに俺の予想通りの答えを口にした。
「自分
の身は自分で
「俺が守る。」
強い口調での言葉を遮って、話し続け
る。
「俺が守るよ。この命に代えても。」
「ヨザ………………」
俺は、涙ぐんで俯いてしま
ったがたまらなく愛しくて、そっと肩を抱き寄せる………………が
バッチーン!!!!!!
「いってぇっ!!!?何す
「バカっ!!」
イキナリビンタを食らわされて唖然とする俺に、は瞳に涙を浮かべなが
ら更に攻撃してくる。
「バカバカバカ!!あんた、本っ当に、
何っにもわかってない!!」
「………………?」
「私をかばって死んでみな
さい!!末代まで呪ってやるから!!」
「いや、俺、子供いないから末代
とか言われても………………」
「ヨザ!!」
「ハイ、スイマセン(汗)」
揚げ足を取る俺を、が先ほどより更に鋭い視線で睨みつける。
「じゃぁ、逆に聞かせてもらうけど、
ヨザは誰が守ってくれるの?」
「自分の身は自分で
「私が守る。」
「!!」
「あなたは私が守るわ。命をかけても、ね。」
これでどうだ!!とでも
言いた気に、は胸を張ってこう返した。
ならばと、俺も負けじと言い返す。
「でも、お前は隊長の“盾”になるって決めてるんだろう?」
「そう
よ。」
「だったら、俺にかまけてる暇はないんじゃありません?」
にとっての優先順位は、いつだって自分より隊長の方が先。
そん
なこと、とうの昔っからわかりきっていることだ。
俺は何を期待してるってんだ……
…………
ヨザックは、少し皮肉るように自らを嘲笑した。
「誰
があなたを“かばって死ぬ”だなんて言った?私は“守る”って言ったの!!」
「………………?」
「私は、自分自身を守る。そして、あなたも守る。自分もあなたも守
り通して、いつだって二人揃って生き残るのよ!!」
「二人そろっ、て………………?」
私がコン
ラートの“盾”になろうと決めたのは、何もコンラートの為だけではない。
そもそもコンラートは、私なんかが守らなくったって、十分に一人で生き残ることが出来
る。
そう。
“コンラート一人”ならば………………
昔はそ
うで十分だった。
コンラートの実力をわかっているからこそ、私も自分一人に集中し
て戦うことが出来た。
それが当たり前だった。
でも、今は違う。
これからは如何なる状
況においても、コンラートはユーリをかばいながら戦うことになるのだ。
当
たり前の事だが、ユーリは全くと言って良いほど戦う術を持たない。
剣術も体術も、
普通の高校生には必要なかったし、もし何か武道をやっていたとしても、所詮は手習い程
度だろう。
しかし、ユーリはもう“普通の高校生”ではないのだ。
命を狙われたり、戦いにその身を置くことも少なくはないはずだ。
そんな時、ユーリにはコンラートという存在が、どうしても必要なのだ。
この先、何があっても一生ユーリを守ることの出来る、忠誠と腕を兼ね備え
ている人物など、コンラート以外には考えられない。
しかしいくらコンラー
トといえども、一人で二人分の命を背負いながら完璧な戦いを望むことは難しい。
必
ずどこかに隙が出来てしまう。
自分は、そんな時に、その“隙間”を埋める
役目がしたいと思ったのだ。
「戦場で、コンラートはユーリのため、そして、私たちが安心して戦えるために、ユーリ
を命がけで守るって言ってくれているの。」
「あぁ。わかるよ。」
「だから、私
たちも、ちゃんとそれに答えなければいけない。」
私たちは、“ユーリ”と
いう掛け替えのない存在をコンラートに預けていけるからこそ、心置きなく戦うことが出
来るのだ。
「ねぇ、ちゃんとわかってる?今、私が背中を預けて戦えるの
は、ヨザ、あなただけなのよ
?」
「隊長は?」
「コンラートにはユーリを守って貰わなくっちゃ!!それが彼
の最優先事項だから。
だから、第一線で思いっ切り戦うのは、私とあなたしかいな
いの。」
はにっこりと微笑んで、こう続けた。
「私が自
分の命を預けられるのは、世界でただ一人、あなただけよ。」
口の橋が緩むのを、止められない。
、お前それ、わかって言ってんのか?
そりゃ俺にとっての最強の殺し文句
だ。
「世の中には、守られるしか出来ない女
の子も沢山いるわ。でも、私はそんなの嫌。
大切な人が傷つくのを、指をくわえて
眺めてるだけなんてまっぴら御免だわ!!」
は顔をしかめて、そんな
台詞を吐き捨てた。
「はははは!!お前、やっぱ最っ高に良い女だわ☆」
「何を今更言ってんの?」
が少し照れたように、そうぶっきらぼう
に答える。
「。」
「何?」
「抱きしめて良い?」
「!!」
一気に頬が真っ
赤に染まったが、あまりにも可愛くって、またもや思わず手が出てしまった。
「………………まだ返事してないんですケド?」
「無言は肯定というこ
とで♪」
俺の胸の辺りで、が大きなため息をつくのが聞こえる。
どうやら今度はビンタを食らわないで済みそうだ。
「………………ありがと
う、ね」
「?」
「まだ、ちゃんとお礼言ってなかったから………………」
「あぁ、気にしない気にしない☆俺が好きでやったんだからさ☆」
そう言っ
て、ヨザックはもう一度、強くを抱きしめた。
もう二度と、離さない
ように………………
ー
僕が守りたいのは君の心。傷つきやすい、君の優しい心ー
[
あと
がき]
このお話は、相互記念として「Empty Doll」秋月恵様に捧げます!!
“ヨ
ザックがむくわれるお話”
とリクエストをいただいたのですが、
何だか暗い方向
に行ってしまって申し訳ありません(汗)
気に入っていただけるか大いに不安なのです
が
少しでも楽しんでいただけると幸せです!!