『』
愛しい人が、私の名を呼ぶ。
まるで宝物
を包み込むような、優しい眼差しで私を見つめる。
『景吾』
愛しい人の名を、私が呼ぶ。
溢れ出る愛
おしさが、唇からこぼれ落ちるように。
現実にはあり得ない、甘い、甘い
夢。
でも、それはやけにリアルで、時に“夢”だと忘れてしまうほどに、私
の胸を締め付ける。
ソレハホントウニタ
ダノユメ?
私の中の誰かが、そっと問
いかける。
違う。
違うよ。
彼は、そんな瞳で私を見つめてはくれな
いよ?
ホントウニ?ホントウニ、ユ
メ?
ホントウニ?──────────
prologue cogwheel of fate
「やっと来たか。遅ぇぞ。」
テニスコートの入り口で待ちかまえていたの
は、私がマネージャーを勤める
氷帝学園高等部男子テニス部の部長
“跡部景吾”
この学園で“跡部景吾”の名前を知らない者はいないだろ
う。
多大なカリスマ性を放ち、この氷帝学園に君臨し続ける王者である。
「マネージャーが朝練を遅刻たぁ良いご身分だなぁ?。」
「………………ごめんなさい。」
ちらりと顔を見上げると、不機嫌そうに私を見
つめるブルーの瞳とかち合う。
「寝坊ばっかりするようなら、無理矢理家に
連
れ戻すぞ。」
「嫌!!」
勢い良くそう答えると、跡部はキツ
く私を睨む。
「だったら、ちゃんと毎日早く来るんだな。」
跡部はそう吐き捨てると、私に背を向けて歩いて行った。
………………ちょっと、マズかったかな。
跡部は、私のこと心配して言って
くれたのに。
デモダメモノ
ハダメ
「………………駄目………………駄目。もうあそこには戻れない。」
ア
ソコニイタラナニカガコワレテシマウ。
美しく壮大で、まるで外国のお城の様
な跡部の家。
私、………………いや、跡部は、両親の離
婚で母の実家であった“
跡部の家”、
つまり、従兄弟である跡部景吾の邸宅で、中等部を卒業するまで暮らしてい
た。
それを、“いつまでも厄介になるわけにはいかない。一人立ちさせて欲しい”
と
言って一人暮らしを始めたのは私の勝手なワガママだった。
最初は猛反対してきた跡
部も、結局は私の熱に負けて首を縦に振ってくれたものの、
時折こうして私を連れ戻そう
とするのだ。
“あの家を出たい”
それは、私の本心であり、決して後悔
などしないハズだった。
ハズだったのに………………。
「落ち込んだらあ
かんで。跡部は何としてもちゃんを連れ戻したくて、イチャモンつけとるだけやか
ら。」
「侑士。」
ふと気が着くと、休憩に入ったレギュラーメンバー達
が続々とベンチに戻って来ていた。
「、タオル。」
「あ、ゴメン!!ちょっとぼっとしてた。はい、亮ちゃん。」
慌ててタオルを差し出すと、“亮ちゃん”こと宍戸亮は顔を真っ赤にして怒鳴っ
た。
「その“亮ちゃん”てのいい加減やめろ!!」
「もうク
セになっちゃったんだから、仕方ないじゃない。」
初等部からずっと一緒と
いうこともあって、宍戸のことは昔から“亮ちゃん”と呼んでいる。
「可愛
くてえぇやん。そういえばさ」
侑士は亮ちゃんを宥めながら、面白そうな顔
で私に話しかけて来た。
「前から気になっとってんけど、ちゃんって、
何で跡部だけ“跡部”なんや?他は全員あだ名やのに。」
「そういやそ〜だよな〜。
自分だって“跡部”のクセに。」
そう言って、横から会話に加わって来たの
は向日岳人。
侑士のダブルスパートナーだ。
「跡部のクセにって………………」
ふと気がつくと、周りの皆が興味津々といった様子で私を見てい
る。
「んー………………わかんない、かな。」
ダッテ
ホントウニワカンナイノ。
昔みたいに
“景吾”って呼べば良いじゃない?
従兄弟同士なんだよ?
同じ名字なんだよ?
名字で呼ぶ方が不自然じゃない?
でも
私の中の“何か”がそれを拒む。
“景吾”
────────── 一度、そう唇に乗せ
てしまったら、もう戻れなくなるよ? ──────────
モドレナクナル………………?
「ちゃん?どないした
ん?」
「………………ごめん、またぼっとしてた。」
侑士が心配そう
な顔で私の顔をのぞき込んでいた。
「従兄弟同士だからこそ、余計に何か照れくさいのよ。」
そう。
そうだ
よ。
きっと。
きっとそう。
「まぁ、確かに気持ちはわかるけどな。近い人
程、何となく照れるよなぁ。」
侑士は、困惑する私に気を使ってくれたの
か、軽く笑って話を終わらせてくれた。
「おい!!お前らいつまで休憩
してるつもりだ!!早くコートに戻れ!!」
私たちの会話が終わるの
を見計らったかの様に、コートの中から跡部の怒鳴り声が響いた。
「おぉ
怖っ。あれは絶対、ちゃんと仲良ぉ喋ってる俺らにヤキモチやいてんねんで?」
侑士は悪戯がバレた子供の様に肩をすくめると、慌ててコートへ走って行
く。
「あ!!侑士ずりぃ!!」
「じゃぁな、。あ、後で数
学のノート貸してくれ!!」
他の皆も口々に私に声をか
けると、楽しそうに走って行った。
そうだ
よ。それだけ。特に理由なんてないよ。
私は
皆に手を振りながら小さく深呼吸をすると、もう一度、そう自分に言い聞かせた。
ー
“偶然”動き出した私たちの物語は、確実に“運命”へと向かっていたー
[
あとがき]
やっちまいました………………(;´Д`)
日記で予告した通り、とうと
う初めてしまいましたよ跡部夢………………
てゆかこれじゃ全然夢じゃないですね
(汗)
ちょっとずつ話を進めていきたいと思います。
よろしければご感想などい
ただけると泣いて喜びます(>_<)
補足しておきますと、“cogwheel of fate”は“運
命の歯車”という意味デス☆