いつからだろう?
あいつが俺を名前で呼ばなくなったのは。


いつからだ ろう?
あいつが俺の目を見なくなったのは。


いつからだろう?
あい つしか視界に入らなくなったのは。









アレ ハオレノモノナノニ。









そう。
俺の モノだ。









俺のモノだ。





















 episode1 flame of envy































「なんや、まだ残っとったんかいな。」


俺が部室で仕事をしていると、それ まで自主練をしていた忍足が部室に戻って来た。
ふと気がつくと、既に日は落 ち、空は暗闇が覆っていた。


「おつかれさん。」
「あぁ。」


俺は忍足の方を見ずに、パソコンのキー ボードを打ち続ける。


「お前こそ。毎日毎日遅くまでよくやるじゃねぇか。
 クラスの女どもが“最近侑士が遊んでくれない”って騒いでたぜ?」
「うっさ いわ。今、俺は“テニスちゃん”に夢中やねん。
 そう言う自分かて、ちゃんとどうな んや?」
「………………何でそこであいつの名前が出てくんだよ。」









────────他の男の口から、あい つの名が出てくるだけで腹立たしいなんて、俺はどうかしちまったのか?────────


俺の表情が曇ったことには気付かずに、忍足は興味深そうに話を続け る。


「噂で聞いたんやけど、お前とちゃんって婚約者なんやろ?」
「はっ!!そんなもん根も葉もないデタラメだ!!」


あぁ。デタラメだ。


あいつは、俺のモノには“なれや”しないんだ。









ソンナコト、オレハユ ルサナイ。









「俺はいずれ何処ぞの“御 令嬢”とやらを嫁にもらい、あいつは何処ぞの“御令息”とやらの所に嫁に行く。
 そ れはこの家に産まれついた者の宿命。俺は勿論だが、ちゃんが結婚しても、
 会社的には何も利益は出んか らなぁ。」









忍足は、苦々しい顔で頭をかく。









ソンナコト、オマエニイワレナクテモワ カッテイル。










あぁ。
わかって る。
わかってる!!


でも、この俺にだって、どうしようも出 来ないこともあるんだ!!


つい力を入れて唇を噛みしめると、口の端から微 かに鉄の味が広がる。


「今“跡部”の姓を名乗ってるのは俺の両親、の 母親、そして俺達二人だけだ。
  要するに、後、使えそうな駒は俺達二人しか残ってねぇんだよ。」
「……………… “跡部家”的には、“”より“跡部”のが大事、ってことやな。」
「わかり易く言ったらそういうことだな。親が離婚せずに“”のままだったら、
 こんなことには巻き込ま れなかったかもしれねぇな。」









チガウ。
コレハウンメイダ。
カナラズ、コウナルウンメイナンダ。











「まぁ、どの道あいつは俺を嫌っ てるからな。その可能性はねぇよ。」
「は?」


俺が帰り支度をしだした のを見て、慌てて忍足もジャージを着替えだす。


『………………誰がど〜 見ても、お互いにビンビンに意識しまくっとるのがわかるゆ〜のに。』


忍足はシャツを羽織りながら大きくため息をつくと、真剣な顔で俺の肩を叩 いた。


「まぁ、でも確かに跡部はともかくちゃんの方は、自分ほど“ラ ブ一直線!!”って感じじゃぁないわな。」
俺 がいつそんなバカな感じになった!?
「これは俺的論理やねんけどな?何か “自分は跡部を好きじゃない!!”って、
 無理矢理思い込もうとしてるみたいや な。」
てめぇ人の話を!!………………もういい。で?何だって?」


思いついたまま喋る忍足の話を遮ることが出来ず、俺は大人しく“忍足論” とやらを聞いてやることにする。


「だから、ちゃんは自分の心にストッ パーをかけて、
 それ以上、奥には踏み込まんようにしてんねや。」
「………………てめぇ、本当に俺様の話聞いてやがったか?
 俺たちが“跡部の人間”である以 上、男と女にはならねんだよ。
 あいつもそれをわかってるから………………
「俺は、もっと根深いもんや思うで?」


忍足は俺の声を遮って、きっぱりと 言い放つと、脱ぎ捨てたジャージを丸めて鞄に突っ込んだ。


「……………… それ、どういう意味だよ?」
「さぁ?流石の俺もそこまではわからんわ。」


やっと 着替え終わった忍足が荷物を持つのを見て、俺もパソコンの電源を切る。


「まぁともかく。自分ら、一回二人で話おうた方がえぇと思うで?」
「余計なお世話 だ。」
「早よ決着つけてもらわな“俺ら”が困んねん。」
「なんだと?」


忍足は不敵な笑みを浮かべると、くるりときびすを返した。


「ま、いつまでもあの子が自分のモンや〜って、思わんこっちゃな☆
 ほんなら先帰 らせてもらうわ。」


最後の最後まで笑みを絶やさずにそう言い放つと、俺に 背を向けてさっさと部屋を出て行ってしまった。









ちっ!!どいつもこいつも勝手なこと ばかり言いやがって!!


力の限り机に拳をぶつけると、手の甲から じんわりと血が滲んでくる。


「………………“血”か。」









どれだけ大金を積んでも、これだけは決して 変えようのないもの。
変わりようのないもの。









ナゼ、アイツト“タニン”ニウマレナカッタンダロウ?









そうすれば、もしかしたら違う未来が 待っていたかもしれない。









ホントウニソ ウダロウカ?









「どこまで行っても、俺 ももこの“血”に縛られたまま、逃れられないのかもしれないな。」









ソレハソレデイイノカモシレナイ。


ソウスレバ、アイツヲエイエンニ、オレノソバニシバリツケテオクコトガデ キル。










「そう。ずっと俺のそばに………………。」



















ー 強すぎる想いは時に狂気となり、想い通づる二人の身を滅ぼすかもしれないー



















[ あとがき]
何だかどんどん暗いことになってます………………
そして跡部夢といいつつヒロインと跡部が全く絡んでません(焦)
そして話が全然進 んでません(死)
そして皆様の反応がとてつもなく怖いです(泣)
タイトルの「flame of envy」は「嫉妬の炎」の意です。









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