『私は“私”の物語を歩んでいく』
『俺は“俺”の物語を歩んでいく。』
私たちは、それぞれの道を歩み始める。
過去にも前世にも左右されな
い、私たちだけの道を、真っ直ぐに。
epilogue be mine
私が不思議な体験をしたあの夏の日から、7年もの月日が流れた。
その後の
私は“跡部”の名前を捨てて“”として生きてきた。
跡部のレールから完全
に外れるために、氷帝ではなく外部の大学を受験し、
大学卒業後は大手企業である
“山田コーポレーション”に就職した。
そう、さんがかつて嫁ぐことになってい
た“旧山田財閥”。
現在では時代の流れとともに名前を変えたその会社で、
私は社長秘書として働いている。
何の因果か、それとも運命なのか。
気紛れで受けてみた採用試験にあっさり受かっ
てしまった私は、
そつなく業務をこなす日々を送っていた。
「景吾、今頃どうしてるかしら…」
高校卒業と同時に海外へ留学し、そのまま海外を拠点に仕事をしている景吾
とは、
もうずっと会っていない。
私の耳に入ってくる「跡部」の情報は、大方が
会社についての話であり、
「跡部景吾」個人については、
時折、山田社長の口か
ら零れる愚痴を小耳に挟むくらいだ。
別々の人生を歩き始めた私たちの進む
道は、あの日以来、決して交わることはないまま、
気付けば私たちは25になってい
た。
「ここに来たのも高校卒業以来だから………………7年ぶりか」
さんの命日である今日、私は一人きりで跡部家の墓にやって来た。
墓石に大好きなピンクの薔薇の花束を手向け、静かに手を合わせる。
「さん、景吾さん、お久し振りです。跡部の名前を捨
てた私には、もうここに来る権利はないのかもしれないけど………………」
お盆をとうに過ぎているため、辺りには他に人のいる気配はない。
風の音と名前の小
さな呟きのみが、辺りの空気を包み込む。
「私ね、気付いたの。何で私は
“ピンク”の薔薇が好きなのか。
赤でも白でもなく、何故“ピンク”なのか。」
ふわり、との鼻を甘い薔薇の香りがくすぐる。
その香りにきゅっと
胸が締め付けられ、瞼に熱を感じる。
「外でおおっぴらにデートが出来ない
あななたちが、
人目を気にせずに腕を組んで歩ける唯一の場所が、
ピンクの
薔薇が咲いている跡部の家の庭だったのね…」
さんが喜ぶから、景吾さ
んは毎年庭いっぱいにピンクの薔薇を咲かせる。
景吾さんが自分のために咲かせてく
れるピンクの薔薇を、
さんは益々好きになる。
私が生まれた時に
は、もうとっくにその薔薇の花壇は
なくなっていたけれど…
「それで
も、あなたの記憶は私
に受け継がれた。」
私は跡部の家を出る前に、綺麗に整備された庭の一角に
一房の薔薇の鉢を植えてきた。
本当は私の手で育てたかったけれど、家を出る私には
無理なこと。
その代わり、最も信頼出来る執事のおじいちゃんに任せて来た。
だってあの庭でなければ、あの薔薇は咲く意味がないのだから………………
ジャリッ………………
ふいに背後で、砂利を
踏み締める音がした。
「…」
「景、吾…?」
人の気配
を感じてふと振り替えると、
大きな花束を抱えた景吾が立っていた。
久
し振りに見る景吾は、最後に見た姿よりぐんと大人びている。
氷帝のブレザーではな
く黒のスーツに身を包んだ景吾は、
何だか知らない人のように見えた。
「…景吾も、お墓参り?」
私の問いには答えずに、私のものより一回りも
大きな花束を手向け
ると、墓石を見つめたままこう呟いた。
「山田コーポレーションは、本日付
けでうちが買収した。」
「…は?」
“山田コーポレーション”ヲ、バイシュウ…?
景吾の口から出て来た突拍子もない台
詞に、は言葉を失う。
「戦前から続く大財閥、山田一族の栄華はたった
今終わったってことだ。
明日からあの会社は俺の支配下。全ての権利は俺のもの
だ。」
「え?え??え!?え〜っ!?」
大学卒業以来、3年
も勤めて来た会社の突然の倒産宣告。
は一瞬にして顔面蒼白になる。
「ちょっ!!ってことは社員はどうなるの!?解雇!?」
「俺
は“山田財閥”という名前を消したかっただけで、社員たちの能力はかっている。
会社の名前が変わるだけで社員はそのままにしてやるつもりだ。」
「そう……」
“社員はそのまま”という言葉に、一端は胸を撫で下ろしただったが…
「新
社長には、既に別の秘書をつけてある。
“前”社長秘書であるお前の席は“あの会
社”には、どこにもねぇ。」
「なっ!?」
「帰ってこい。」
景吾は詰め寄るの瞳を、じっと見つめてそう告げた。
「こ
れからは、一生俺の秘書として働け。これは命令だ、お前に拒否権はねぇ。」
「…一
体どういうこと?」
「“”が橋渡しとして嫁がなくても“跡部財閥”は“山田財
閥”を手中に収めた。
これで何の問題もない…そう思わねぇか?」
「ま、まさ
か、そのために山田を潰したの?」
景吾は軽く口の端を上げて、唖然とする
の顔を面白そうに見つめる。
「政略結婚なんざ古い手を使わなくても、
俺は“跡部”を確立していけると証明してみせた。誰にも文句は言わせねぇ。」
「言
わせねぇ、って…」
あまりの強引な物言い
に、眩暈を覚える。
「本当…に?」
あぁ駄目だ。
言葉にな
らな
い。
帰っても良いの?
あなたの側に、帰っても良いの…?
「跡部、
に…?」
「お前があの家に帰りたくないって言うなら、どっかにマンションでも買っ
てそこに二人で暮らしてもいい。」
そして、後は全て次第だ、と付け加
えた。
「私次第…」
良いのかな?今度こそ、幸せになっても、
良いのかな?
『全てはあなた次第』
そんなさんの声が聞こえた気がした。
「…景吾…私…」
「あぁ。」
「私、また“跡部”に戻っても良
いの…?」
「当たり前だ。」
「私たちの恋は、ハッピーエンドでも良いのか
な?」
「あの人たちの分まで、俺たちが幸せになりゃあ良いんだ。」
「うん…う
ん…」
突然強い風が吹いて、ピンクの薔薇の花びらが舞い踊る。
私たち
を包み込むように、優しく宙を舞う。
まるで、さんと景吾さんが、私た
ち
のことを祝福してくれているかのようだった…
ー
私は決して2人の恋を忘れない。今もキラキラと輝く、私の胸の光ー
[あとがき]
最終話のタイトルであり、このお話のメインタイトルでもある「be mine」は
「私のものになって」という意味で使用しています。
まぁ、跡部の場合は「俺様のものになりやがれ」って感じですが(笑)
ようやく終わりました…
というより無理矢理終わらせてしまいました(
汗)
前半は話の流れが頭の中にうわ〜っと沸いてきたのでスラスラといったんですが、
途中か
ら本当にずっこけてしまって…(´A`;)
とかいいつつ、実はあと1話分話が残ってはいるのですが、全11話とかキリが悪いし、
9話
の後書きで「次で最後」とか宣言しちゃってたので、カットしてしまいました(最低)
もしかしたら、未来編を番外編で書くかもしれないです
が
書かないかもしれません…(オイ)
次からはまた別のテニプリ連載をやろうかと模索中…
にしても、たったの10話に時間かけすぎだよオイってゆ〜ね…
今までおつき合いくださって、本当にありがとうございました!
2007.5.15 花音