長い、長い夢を見た。
でもそれは決して幻などではなく、私の中にある確かな真実。


彼女の恋も、人生も、私の人生の一部なのだから





















 episode9 end of dream





















急に意識が引き戻されて、目の前がクリアになっていく。
ぐっと瞳に力を込めて、重 くのしかかる瞼を持ち上げると懐かしい香りと感触が私を包み込んだ。


「………………ここは………………」


見覚えのある風景と、肌に馴染むシーツ。
長く使っていなかったが、この感触は自分の部屋のベットだ。


ふと視線 を移すと、ベットの脇の椅子に座っている景吾と目が合う。


「目ぇ覚めたの か?」
「うん………………」









目が醒めた 。


もう、さんはどこにもいない。
私は“過去の世界”から戻って来 たのだ。









「お前………………また眠りながら 泣いてたぞ。」
「え?」


景吾がそう言って右手をそっと私の頬に寄せる と、ほのかに熱を持った雫が彼の手の甲を伝う。


もう悲しいわけじゃない。
悲しいわけじゃなかった。
でも、涙が次から次へと溢れて止まらない。


まるで、私の心の一部にぽっかりと穴が開いてしまったような感じ。
大 切な何かが抜け落ちて、今はただ虚無の空間が広がるばかり………………









『きっと、きっと幸せになって?約束よ………………』









そこには、つい先ほどまでさ んがいた。
暖かく優しかった彼女の魂は、私の中から抜け出して、
天国の景吾さ んの元へ向かったのだろう。


………………さん………………」


きっとこの涙は、私の心 の涙だ。
さんがいなくなって寂しい、寂しい、と、私の心が泣いているんだ。


「お前、本当に大丈夫か?」
「えぇ………………」


心配そ うに自分の顔をのぞき込む景吾と目が合わないように、慌てて顔を伏せる。









そうだ。
景吾には全てを話さなければい けない。
景吾には知る権利があり、そして、全てを知る私にはそれを伝える義務があ る。


あの悲しくて、切なくて、たまらなく愛しい2人の恋の物語を………………









私はしっかりと伝えることが出来るだろ うか?
さんの想いも、景吾さんの想いも、


そして


私の 想いも



















「………………喉渇いただろ、何か飲み物持ってくる。」


景吾は沈黙に耐え 兼ねたのか、一息つくと、そう言ってゆっくり立ち上がった。


「………………ねぇ、景吾。聞いて 欲しいことがあるの。」


帰宅した後、着替えることもなくずっとの側に ついていたのだろう。
は未だに制服に身を包んでいる、景吾のブレザーの裾を軽 くつかんで引き止める。


「どうした?」


景吾は再び椅子に腰を 下ろすと、優しくの瞳を見つめ返した。









私とあなた。
そして、2人 きりのこの空間。









これで舞台は整った。
さて、最初は何て切りだそう?



「あのね………………」





さぁ、次のページは 開かれた。


後は、私たちが自由に物語を綴ってゆけば良いだけ。


私とあなただけの物語を………………



















―永遠に色褪せることない、彼等の物語 へ想いを馳せる。奇跡の物語へ想いを馳せる―



















[ あとがき]

後一話で終わりで す。
長い間、おつきあいありがとうございましたm(_ _)m








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