あなたの大きな手が好きだった。
あなたの暖かな瞳が好きだった。
あなたの優しい心が好きだった。
あなたの全てが大好きだっ
た。
episode7 don't say good bye
が床に伏せるようになって、三ヶ月が過ぎようとしていた。
元々、心臓
が弱かっただったが、ここ最近のストレスが心臓にかなりの負担を与えていたよう
で、急激に病状が悪化してしまったのだ。
主治医の宣告では、移植手術をしなければ
あと数刻しか保たぬ命だという………………
「一刻も早く、の結婚話を進めねぇと………………」
「忍足医院のぼっちゃま、
ですか?」
「………………………………。」
ため息をつく
気力もない俺は、執事の問いに小さく首を振って答える。
と忍足との婚約を決め
たのは、“が忍足の家に嫁げば、必ず海外の病院で治療が受けることが出来る”
とい
う特典がついてくるからだ。
日本でも有数の権力を握る忍足医院は、最先端
の医療技術を誇る海外の大病院とのつながりが強い。
忍足の口利きがあれば、すぐに
でもの手術は行われるだろう。
しかし、現在の跡部の力だけでは、到底
そこまでのことをにしてやることは出来やしない。
「くそっ!!
俺に、俺に、もう少し力があったら、あいつをどこにもやらずに病気を治してやる
ことが出来るってのに!!」
その時だった。
景吾の書斎のドアが遠慮がちにノックされた。
「あの、お
嬢様のことでお話が………………」
そう言って、深刻な表情で部屋に入って
きたの主治医は、
申し訳なさそうな顔でこう告げたのだった。
「薬を飲んでなかっただと!?」
「お嬢様のお部屋の引き出しから、過去
三ヶ月分の薬が見つかりました。」
「三ヶ月………………?」
景吾の背
中をひやりとしたものがつたった。
『三ヶ月………………結婚話が出たすぐ
後じゃねぇか………………』
「毎日処方箋を飲んでいるにしては、あまりに
も病状の進行が早すぎると思いまして、
お嬢様を問いつめましたところ、副作用を
嫌って飲むのをやめていた、と………………」
「あのバカ!!」
景吾は慌てて部屋を飛び出すと、一目散にの部屋に向かった。
「………………起きてるか?」
「お兄様………………」
もう何カ月
もろくに食事もとらず寝たきりだったは、すっかり頬がこけ、瞳に力がなくなってし
まった。
「………………どうして薬を飲まない?」
「………………………………。」
景吾がそう問うても、は口を開こうとしない。
「………………一体、
何を考えてるんだ?」
「………………………………。」
「………………俺にどうして欲しいんだ!?」
俺が少し苛立って強い口調でそう問うと、
はやっと重い口を開く。
「結婚して。」
「!!だから、
それは」
「山田財閥のお嬢さんと、ね」
は俺の瞳を真っ直ぐに見つ
めると、柔らかく微笑んだ。
「………………?」
「あなたは、結婚
して、子供をたくさん作って、幸せになって。」
消え逝く私の最後の願い
は、ただそれだけ。
どうか、愛する人が幸せであるように。
「私の物語
はもう終わってしまうけれど、あなたの物語は、この先何十年も続くの。」
は、まるで夢物語にひたっているかの様に、幸せな表情を浮かべる。
「さっきね、とても素敵な夢を見たの。あなたのずっと先の孫娘と孫息子の、恋の物
語。とても幸せな夢だったわ。」
でも、目が覚めた瞬間に気がついたの。
自分からちゃんとお別れを告げなければいけない。
そうしないと、景吾は前に進
めない。
そして、“彼ら”の物語が、消えてしまう。
「景吾、
愛しているわ。今までも、これからも、生まれ変わっても、ずっとあなたを愛している
わ。」
「………………」
「約束よ?いつか、必ずもう一度出会いましょう?
そして、今度こそ………………」
そう呟いて、静かに閉じられたの瞳は、もう二度と開かれることはなかった。
突然の“死”だった。
弱りきっていたの
心臓が、生きることを放棄してしまったのだ。
“お前に別れを告げること
で、自分からお前を解放することで、の物語は完結してしまった。もう良いだろ
う?”
そう言って、神はを連れて行ってしまったのだ。
俺が望んでいたのは、こんな結末なんかじゃ
ない!!
こんな結末なんかじゃなかったのに………………
お前の綺麗な髪が好きだった。
お前の柔らかな唇が好きだった。
お前の優しい声が好きだった。
お前の全てが大好きだった。
ー
幾度輪廻を繰り返そうとも、私の想いは必ずあなたの元へー
[
あとがき]
タイトルは「さよならは言わないで」です。
後3話で完結予定になり
ます。
まるマや彩雲国に比べて、このテニスの感想はかなり少なくて
(というか
全くと言って良い程なくて…)、
楽しんでいただけてるのか正直な所、不安要素が多
いのです
が、
最後まできっちりと書ききりたいと思います(>_<)