幸せになりたかった。
あなたと幸せになりたかった。
幸せ………………?
そもそも、“幸せ”って何?
お金があれば幸せ?
愛す
る人が側にいれば幸せ?
私の“幸せ”って何?
あなたの幸せが私の幸せ?
そんなの嘘。
あなたが幸せでも、私は幸せにはなれない。
あなたがいないのに、幸せになんてなれない!!
幸せになんて、なれないのに………………
episode6 hurt your mind
「結婚が決まった。」
景吾がふと思い出したようにそう呟いたのは、いつ
もの様に二人で夕食をとっている時のことだった。
「………………相手
は?」
「山田財閥の社長令嬢。お前より
二つ年下の18だそうだ。」
「そう………………。」
わかっていた。
いつかこんな日が来るこ
とは、ずっと前からわかっていたわ。
「この
会社をもっと拡大するには、どうしても必要なことなんだ。どうしても、な。」
わかってる。
そんなこと、私だってちゃ
んとわかってる。
“山田財閥”って言ったら、歴史の教科書にまで名前が
載ってる程の、由緒正しい大財閥。
まだまだ新参者であるうちの会社としては、もっ
てこいの相手だ。
あちら側としても、近年急激な成長を見せているうちの会社と、手
を組んでおくのも悪くはない、といった所だろう。
「それと、。お前の嫁ぎ先も決まっ
た。」
「どういうこと!?」
「これも、もう決まったことだ。相
手は
「私は結婚しないって言ったはずよ!!」
「そ
ういう訳にもいかないだろう。お前ももう20歳だ。
とうに適齢期だというのに、
いつまでも実家にいたんじゃ外聞も悪い。」
「外聞って………………」
『私のことなんて、どうでも良いの!?』
そんな言葉をすん
での所でぐっと飲み込み、唇をきつく噛みしめる。
「………………私には、
好きな人がいます。」
「!!」
「景吾“お兄様”もご存知かと思いま
すが、私には生涯この人だけ、と心に決めた方がいます。」
「………………………………。」
「私の心は、永遠にそのお方以外の誰のものでも有り得ません。
それ
だけはこれから先一生、揺らぐことはないでしょう。」
は真っ直ぐに景
吾の瞳を見つめる。
「それでも、お兄様がどうしてもと言われるのであれ
ば、私にだって覚悟は出来ております。」
頑
張って。
、もう少しだけ頑張るのよ。
そう、怯みそうになる自分の弱い心に
言い聞かせる
。
「私の体は、病でどの道あと数刻しか持た
ぬ命。
このちっぽけな命をかけて、その方への愛を貫かせていただきます。」
は深くお辞儀をすると、食事の途中であるにも関わらず部屋を後にした。
「………………俺だって………………俺だって!!くそっ!!」
景吾は、思い切りテーブル
に拳をたたきつけた。
「………………」
俺が数年前に事業を初めてから、ここまで会
社を大きく育てて来たのは全てのためだった。
両親が居らず、幼少期
を貧しい孤児院で過ごした俺たち兄妹の夢は、
いつか二人で大きな家に住むことだっ
た。
幼い頃に、貧しく、辛い暮らしをさせてしまったに、裕福な生活を
送らせたかったんだ。
『、この事業が成功したら、このボロアバートを
出て大きい家に移れるぞ。』
昔、そ
う、俺の事業がやっと軌道に乗って来た頃だった。
そう言った俺に、あの時、は
柔らかく微笑んでこう言ったんだ。
『お家は何でも良いの。私はお兄ちゃん
と一緒にいられれば、それだけで幸せだから。』
確かにあの時、あの瞬間、
俺たちは幸せだった。
それなのに
いつ間違えてしまった?
一人残された食卓で、景吾はどうしようもないジレンマに頭を抱えていたのだった。
そして
このすぐ後、が体調を崩して床に伏せる
ようになってしまうのは、
この出来事の数週間先のこと………………
ー
私の心は、永遠にあなた以外の誰のものでも有り得ないのよー
[
あとがき]
タイトルの意味は、「あなたの心を傷つける」です。
今回と次回は、
初代会
長とさんのお話になります。
何だかマックス暗い感じですが、楽しみにしていた
だけてるなら嬉しいです!