君がいないこの家なんて、全く想像出来 ないんだよ。











 十参 儚姫〜 hakanahime〜











「あぁ………………何 が悲しくて、俺はお前と二人きりで、こうして食卓を囲んでいるんだ?」
がま だ茶州から戻らぬのだから、仕方あるまい。」


が不在のため、楸瑛&龍 蓮兄弟は二人で仲良く(?)向かい合わせで食事をしていた。


「………………………………………………………………。」
「………………………………………………………………。」
「………………………………………………………………。」
「………………そういえば、電報が来ていたぞ。」
「誰からだ?」


楸瑛は、あまり興味がなさそうに汁物をすする。


「今夜、仮面 尚書が来るそうだ。」
ぶ〜っ!!!!!!!!!!


楸瑛は口に 含んでいた汁物を、思い切り龍蓮に吹きかけた。


「………………汚いな。」
ばっ!!お前は!!そういう大事なことはもっと早く言わないか!!
「今 思い出したのだ。」
そんなのが言い訳になるかあああああああああ あ!!!!!!!!!!
「あの、楸瑛様………………お客人がいらしてるの ですが。」


二人がすったもんだしている所に、使用人がおろおろした様子で やってきた。


「………………仮面か?」
「………………仮面です。」
「………………はぁ。」


楸瑛は大きくため息をつくと、ゆっくりと席を 立ち上がった。



















「突然お邪魔して、申し訳ない。」


応接間に通された鳳珠は、楸瑛と龍蓮の 向かいに座った。


「いえ、龍蓮のアホが………………いえ、うちの弟が、 ちゃんと私に伝えなかったのがいけないですから。
 何のおかまいも出来ませんですい ません。」


表面上は冷静な表情を繕っていても、楸瑛は内心、発狂しそうな 程混乱していた。


『なななななななななななんの用なんだ一体!?彼女の実家(?)に単身乗り込んで くるか、普通!!』


「藍将軍、龍蓮殿。」
「は、はいぃ!!」


思わず楸瑛の声が裏返る。


「将軍たちは、どうしてが、茶 州の秀麗の所に行っているかご存知ですか?」
「??休暇を利用して、秀麗に会いに 行っているのでは?」
「私がに結婚を申し込んだからです。」
「「!!!!!!!!!!??????????」」
「おそらく、その事を相 談しに行ったのでしょう。」


あまりの衝撃に、楸瑛は口を大きく開けたまま 固まっている。


けけけけけけけけけけ結婚て!?結婚ですよね!?そ れを、は受けたのですか!?
「いいえ。まだ返事はもらっていませ ん。」


すると、大人しく黙って話を聞いていた龍蓮が、突然口を開いた。


「なら、先にうちに挨拶に来るのは、気が早すぎるんじゃあないのか?」
の返事はおそらく “否”です。」


鳳珠はきっぱりとした口調で、そう言い放った。


「その理由は、あなたたち兄上を気遣ってのことです。勿論あなた方お二 人だけでなく、三つ子も含めてですが。」


やっと落ち着きを取り戻し た楸瑛は、真剣な表情で鳳珠に尋ねる。


「失礼ですが、それはどういう意味 かお聞きしてもよろしいですか?」
「聞くまでもないでしょう?妹離れ出来ない兄た ち、兄離れ出来ない妹。それで十分ではありませんか?」
「………………それ依然 に、結婚はまだ早いと思われませんか?まだ官吏になって一年程しか経っておりません 。」
「結婚しても仕事は続けさせます。私もの能力は理解していますし、それは当初からの二人の間で約束でしたから。」
「しかし、まだ紫州では女性官吏 に理解がない。これからのの苦難を、考慮に入れた上での決断ですか?」


「藍将軍が、を大切に想っているのは承知しています。しかし藍将軍 は、とは結婚は出来ないのですよ。」
「……………… 黄尚書は私を馬鹿にしてらっしゃるのですか?そんなこと、あなたに言われるまでもなく 承知しています。」


鳳珠の無神経な台詞に、楸瑛の怒りは高まる。


「いや、わかっておられない。“兄妹”は一生変わることのない永遠の絆で す。でも“兄妹”だからこそ、
 永遠に一緒にいるわけにはいかないのですよ。」
「確かにそうだな。」
「龍蓮!!お前は一体どちらの味方なんだ!?」
「私は“の味方”に決まってるであろう。」


龍蓮は胸を張っ て答えた。


「仮面尚書よ、勿論結婚を決めるのは自身の問題だが、同時 に藍家と黄家の一族間の問題でもあるのだ。
 私たちや藍州を治めている上の兄たち だって心の準備というものがある。少し時間を与えてはもらえまいか?」
「勿論その つもりです。が帰って来るまで、がいなくなるということに慣れてお くと良いでしょう。」


そう言うと鳳珠は、深く一礼すると部屋を出て行っ た。



















「………………お前、思ってたより大人な んだな。」


そうぽつりと呟いた楸瑛に、龍蓮は呆れたように返した。


「愚兄其の四が子供すぎるのだ。私はが幸せならそれで良い。」
「………………………………幸せになれると思うのか?」
「あの男なら大丈夫だ。を必ず幸せにしてくれる。“この藍家”に喧嘩を売ってまで、が欲しいとい うのだから本物だろう。」
「………………………………そうだな。」


楸 瑛は寂しそうにうなだれた。


がこの家からいなくなるのか…………… …」


楸瑛のそんな悲し気な嘆きは、寂しく家に響いたあと、夜の闇にかき消 された。



















[ あとがき]
ヒロインが全く登場しなくてすいません(汗)
もったいぶるだけもった いぶらせます(笑)

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