茶州から帰って来たは、まず一番に自分の配属場所である戸部に顔を出した。
伍 蜜姫〜mitsuhime〜
「はい、黄尚書♪」
名
前は、小さな小包を、黄尚書に差し出した。
「…………これは?」
「茶
州名物のおまんじゅうです。凄く美味しかったんで、お土産です!」
「そうか。気を
使わせてしまって悪かったな。」
「いえ!忙しい時期に、私の勝手でお暇を頂いたん
ですから、これ位当然ですよ!!」
そう言うと、はにっこりと微笑ん
だ。
「あっ、いけない!!劉輝様の所に報告と、秀麗から預かった書類を届
けなきゃいけないんだった!!」
「普通、帰って来たらまず最初に王に報告に行くも
のなんじゃないのか?」
鳳珠が呆れたようにを見あげた。
「すっ、すいません!!黄尚書たちのことしか頭になくって、つい………。急いで
行って来ます!!」
は真っ青な顔をして、大慌てで部屋を後にした。
「…………………………………鳳珠。」
「何だ?」
「ほっぺが緩んでますよ?」
「!!!!…………………………って、仮面で隠れてるんだぞ!?」
「はぁ…………一体何年の付き合いだと思って
るんです?
見なくたってわかりますよ、それくらい。」
柚梨は面白そう
に微笑んだ。
「一応言っときますけど、さんは黄尚書“たち”
って言ったんですよ?
そこに私も含まれていたことをお忘れなく♪」
「(
まったく意地の悪い男だな!!)……………………言われなくてもわかっている!!」
鳳珠が大声で柚梨にそう返したその時だった。
「お取り込み中失礼しま
す。」
「おや、また藍将軍…………に、李侍郎まで一緒ですか。」
柚李
が爽やかにイヤミを言う。
「が戻ったと聞いたのですが?」
「えぇ、帰って来て“一番”にここへ来ましたよ。今は劉輝様の
所へ報告に行っています。」
“一番”という台詞に一瞬だけ、ピ
クッと眉を寄せた楸瑛は、必死に笑顔を繕った。
「少し、を待たせてい
ただいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ。それにしても、王付きの官吏というの
は、そんなにも暇なんですか?
私たちの仕事を分けてさしあげたい位ですねぇ。」
柚梨のあからさまな態度に、楸瑛と絳攸は居心地悪そうに顔を見合わせた。
『おい、柚梨。将来有望な若者をそういじめてやるな。』
鳳珠
が二人には聞こえないように柚梨に耳打ちした。
『いじめるだなんて!私は
当然のことを言ったまでですよ。』
「ただいま戻りました〜!!……………………っ
てまたいるし……………………」
はげんなりと楸瑛を見つめた。
「、
困ったことはなかったか?龍蓮に何かされなかったか!?辛く苦しい旅じゃな
かったか!?」
楸瑛が真剣な顔での肩を揺さぶった。
「ん
〜、そりゃ困り
っぱなしだったけど、それなりに結構楽しかったかな☆
龍蓮とも前より打ち解けた気がす
るし。久々に兄妹仲良く“川の字”で寝たしね。」
『川
の字!?』
その場の誰もがその言葉に氷ついた。
「……………………それはどういう意味だ??」
完全に固まってる楸瑛の代わりに絳攸が口
を開いた。
「龍蓮のアホが財布落としたんですよ!!本当信じられない!!
それでお金がなくて、部屋が一つしか取れなくって…………って楸瑛兄様?どこに行く
の?」
「…………龍蓮は今どこにいる?」
「えっと〜、旅に出る前に
一度家に戻るとは言ってたけど、もういないかも〜…………って既にいないし!!」
「あ、では私もこれで失礼します。」
絳攸は、剣の柄に手をかけて飛び出し
て行った楸瑛を追って、慌てて出て行った。
「…………??あ、お茶入れま
すから3人でおまんじゅう食べましょう♪」
気をとり直したは、3人分
の湯飲みに
手をかけた。
「あぁ、さん、私はこれから出かける用事があるので、鳳
珠と2人で召し上がってください☆」
今思いついたように柚梨がそう言う
と、自分の湯飲みをの手から取った。
『…………わざとらしい真似をす
るな!!お前は一体私の邪魔をしたいのか、仲を取り持ちたいのか、どっちなんだ!?』
鳳珠が不機嫌な顔で柚梨を睨んだ。
『邪魔したいわけないで
しょう?人の恋路を邪魔したら馬に蹴られちゃいますからね☆』
平然とそう言
いきった柚梨に、鳳珠は開いた口が塞がらなかった。
『…………鳳珠、
さんは超度級のおニブさんですよ?それでなくても、うるさい兄たちが一杯いるんですか
らね!!
そろそろ本気出さないと、どこぞの侍郎やら何やらにかっさらわれても知り
ませんよ??』
「??二人とも、何をこそこそ喋ってるんですか??」
「あ、いえ。それでは行って来ますね。」
柚梨は、鳳珠の肩を軽く叩くと、
足取りも軽やかに部屋をあとにした。
「景侍郎ってなんだかおかしな人ですね。」
は笑いながらまん
じゅうの包みを開いた。
「あぁ、あいつは頭がおかしいんだ。」
鳳珠は大きな溜め息をついた。
「(…………そういう意味で
言ったんじゃないんだけどなぁ)はい、お茶入りましたよ。」
「あぁ…………。」
「はい、おまんじゅうもどうぞ。」
「あぁ…………。」
「…………話、聞い
てます??」
「あぁ…………。」
「……………………黄尚書って、どうして結婚
なさらないんですか?」
「ぶふっ!?げほっ!!ごほっ!!ごほっ!!」
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
「……………………何故急にそんなことを聞く?」
「あ、いえ、あの、その、秀麗たちから色々聞きまして…………紅尚書の奥様と色々
あったこととか…………」
『…………まったく、余計なことを!!』
鳳珠は心の中で舌打ちをした。
「……………………そんな昔の
こと、とうに忘れたに
決まってるだろう。ただ、良い相手に巡り逢わなかっただけだ。」
「そ、そうですよ
ね、すっ、すいませんでした!!失礼なことお聞きしまして!!」
『………………………………きっと、気軽に人には触れて欲しくないことだったのに…………私って最低だわ!!』
は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「…………………でも。」
「??でも…………??」
「これまで待った甲斐があったというものだ。この年に
なって、やっと巡り逢えたんだからな。
一つ忠告しておくが、私は遠慮する気は更々
ない。卑怯な手を使ってでも、必ず手にいれる。」
は体の芯か
ら震え上がった。
『…………………!!
私ったら馬鹿ね!!あんたが照れる必要なんて
全くないじゃないのよ!!』
は、一向に止まない心臓の高鳴りを、誤魔
化すように明るく笑った。
「そ、そんな心配されなくても大丈夫ですよ!!
黄尚書はとっても素敵ですから!!
私が保証します!!…………って、私が保証しても仕
方ないですけどね!!」
は動揺を悟られないように、一気にまくしたてた。
「そうか。それは、
とても心強い。」
鳳珠はゆっくりと立ち上がると、そっとに近付いた。
そして、の黒く長い髪を一房、細く長い指ですくうと、優しく口付けた。
「…………覚悟しておけ?まぁ、嫌だと言っても聞く気はないがな。」
そう、の耳元で囁くと、鳳珠は風のように去って行った。
しばらく状況が飲み込めずに、呆然としていたは、急に我にかえると、
顔から火を吹くほど真っ赤になった。
『…………え、え、え、え!?
えぇぇぇぇぇぇぇぇえっっ!!??』
の、叫び声が彩雲国中に響
き渡ったのは言うまでもない……………………。
[
あとがき]
やっとこさ、鳳珠夢っぽくなりました!!
うちにしては珍しく甘目に仕上がっ
たのではないでしょうか??
また感想お聞かせ下さい♪