いくら兄様だって、言って良いことと、 悪いことがあるわ!!











 九 涙姫〜 namidahime〜











「………………、 さっきは頭ごなしに反対して悪かった。反省してるよ。」


の部屋の前で 楸瑛がしょんぼりとたたずんでいた。


?私とは口もききたくない程、 怒ってるのか??」


しかし、何度楸 瑛が呼びかけても、の返事はない。


「もう、入ってしまえば良いではないか?」


横でじっと見てい た龍蓮が、ドアノブに手をかけた。


「わ!ちょっと待て!!余計に嫌われた らどうする気だ!!」
「………………いない。」
「へ!?」


の 部屋はもぬけの空で、二人をあざ笑うかの様に、大きく開かれた窓辺を、カーテンが揺れ ていた。



















「………………あ、あ のぅ、鳳珠様………………。」
「何だ?こんな遅くに?」


古くから黄家 に仕えている執事が、言いにくそうに鳳珠に耳打ちした。


「お客様がみえて いるのですが、いかがいたしましょう?」
「こんな遅くにか!?そんなもの追い返し ておけ!!何だ?また黎深か!?」


鳳珠は時間を考えずに訪ねて来る、非常 識極まりない男を思い浮かべて、嫌そうな顔をした。


「い、いえ、それが若 い女性で、泣きながら『変態仮面を出せ〜!!』と………………(汗)」
か!!」


鳳珠が慌てて玄関に走って行くと、涙で顔をぐちゃぐちゃに したが、仁王立ちしていた。


「家出して来たの!!今晩泊め て!!」
「家出!?」
「今、秀麗は茶州にいるから、紅家に泊まらせても らうわけにもいかないし、他に行く所ないの!!」
「わ、わかったから!!とりあ えずここで泣くな!!私の部屋に来い!!」


ふと気づくと、屋敷中の使用人 が、噂の姫君を見ようと 集まっていた。


「お前たちも、さっさと持ち場に戻れ!!」


鳳 珠はを抱え込むと、足早に部屋に戻って行った。









「………………兄たちに反対されたのか?」
「………………。」


はうつ向いたまま、小さく首を縦に振った。


「そうか………………。」


鳳珠はゆっくり仮面を外すと、真正 面からを見つめた。


、私の目を見て答えるんだ。私のことをどう 思う?」
「………………愛しているわ。」
「なら、何も問題はない。お前が兄た ちを大事にしたい気持ちもわかるが、
 私はそんなことでお前と別れるつもりはな い。」
「私だってそんなつもりはないわ!!………………ただ、兄様たちは相手が鳳珠 じゃなくて他の人だったとしても、
 絶対に反対するに決まってるのに、それなの に、鳳珠を悪く言うのが我慢出来なかったのよ!!」


自分が考えていたより も、ずっとは自分のことを想ってくれていると実感し、
嬉しくなった鳳珠は、優しくを抱きしめた。


「お前は何も心配しなくて 良い。必ず私が守るから。大丈夫だ。」


すると、鳳珠の胸に抱かれて安心し たのか、は泣きつかれて眠ってしまった。
すぅすぅ寝息をたてるを自分の ベットに横たわらせると、鳳珠はの額に口づけをおとし、そっと部屋を後にした。


「鳳珠様?こんな遅くにどちらまで?」


先ほどの使用人が、屋 敷から出ようとする鳳珠を呼び止めた。


「………………藍将軍の屋敷に行っ てくる。のことは頼んだぞ。」
「………………かしこまりました。お気をつけ て。」


鳳珠は再び仮面を付けると、夜の闇に消えて行った。



















一方、藍将軍宅はと言うと、がいなくなったことで、屋敷中が大騒ぎになっていた。


は一体何処に行ってしまったんだ!?ま、まさか、黄尚書の所 じゃないだろうな!?
「愚兄其の四。 」
何なんだ!?
「仮面尚書が来ておるぞ。」
何!?


一瞬にして、瑛の顔色が真っ青になる。


「……………… お、お通ししろ。」
「もう来ておる。」
「!?」


よくよ く見てみると、確かに龍蓮の後ろに、黄鳳珠が立っていた。


もっと早 く言え〜!!!!


楸瑛は、もはや声にさえならない叫び声をあげて、 その場に倒れそうになった。


「夜分遅くに突然お邪魔して、申し訳ない。」
は、そちらにお世話になっておるのか?」
「あぁ。今うちで、泣きつかれ て眠っている。」


『何でこいつは黄尚書相手に普通に出来るんだ!?』


楸瑛は、あくまで鳳珠と同等に喋っている龍蓮が信じられなかった。


「黄尚 書、と、とりあえずこちらにどうぞ。」


そう言って瑛は無理矢理笑顔を作 り、鳳珠を椅子に座らせると、自らも向かいの椅子に座った。


「……………… 藍将軍。」
「は、はい!?(や、殺られる!?)」


楸瑛の 首筋に、嫌な汗が伝う。


「私とのことを、許して戴けるよう、お願いに 来ました。」


鳳珠は深々と頭を下げると、唖然とする楸瑛にかまわず、なおも 続ける。


「貴殿等がを大切に想われる気持ちも、心配されるお気持ちも わかっています。でも、私にだって、が必要なんです。
 じゃなくては駄目なので す。この私の気持ちだけは、くんでいただきたい。」
「………………黄尚書は本気な のですね?若い娘とあなどって、一時の火遊びなどとは、思っていらっしゃらないのです ね?」
「無論です。」


鳳珠は即座にそう答えた。


「………………わかりました。そこまでおっしゃるなら、お任せします。のこと、よろしくお 願いします。」


今度は、楸瑛が深く頭をたれた。


「申し訳ない が、今日の所は完全にも頭に血が昇ってます故、うちでおあずかりします。
 本人は家 出してきたと言っていますが、明日 にはこちらにお返しします。では、本日はこの辺でお暇させていただきます。」
「ご迷惑をおかけして、すいませんでした。では、夜道にお気をつけてお帰りくださ い。」


最後にもう一度深く礼をすると、鳳珠は風の様に去って行った。



















「………………何処ぞの国では、娘を奪いに来た男を、父親が殴るんだそうだぞ??」
「………………あの人を殴れるわけがないだろう?」


楸瑛はぐったりとうなだ れた。


「まぁ、そう泣くでない。が幸せなら、それで良いではない か?」
「誰も泣いてなどいない!!」


こうして、の家出 騒動は、幕を閉じたのであった。



















[ あとがき]
鳳珠は、立場的にはには下である楸瑛ですが、“さんの兄”に対して敬意を 払っているので、ちゃんと敬語です。
彩雲国はまるマと違って、妙に甘くなる傾向があり ます(笑)

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