あの日のことは、15年たった今でも鮮
明に覚えているわ。
……………………ううん、違う。きっと、一生忘れることなんて
出来ないのよ。
「コンラート!!アルノルドへ行
くって、本当なの!?」
私は、慌ただしく城内を駆け回っていたコンラート
を、強引に引き留めて問いただした。
「あぁ。“ルッテンべルク師団”とし
て参戦する。」
「そんなの、シュトッフェルが都合よく、私たちを追い払う
ための罠に決まってるじゃない!!
みすみす死にに行くようなものよ!!」
コンラートは苦々しく顔をしかめた。
「……………………わかってる。それ
でも俺たちは、ルッテンベルクの誇りにかけて、どうしても行かなきゃならないんだ。」
「……………………コンラート…………。」
コンラートは、そ
こで死ぬ覚悟を決めたのだ、とは瞬時に理
解した。
「……………………わかったわ。なら、私も行く!!」
「駄目
だ。」
「何故!?私もルッテンべルクの人間よ!?一緒に戦うわ!!」
「、君はジュリアを守ってくれ。」
「私じゃなくても、ジュリアには沢山の護衛がい
るわ!!私、きっと役に立つから!!お願い!!」
「俺は“”に頼んだんだ。
お前の実力は良くわかってる。だからこそ、お前にジュリアを守って欲しいんだ。」
コンラートは感情のこもらない声で淡々と話した。
「……………………っ!!……………………コンラートはいっつもそう!!私の気持を知ってて、
私
があなたの頼みを断れないことを知っているから、そんなことが平然と言えるんだ
わ!!」
「、ちょっと落ち着け!!」
「わかったわ!!もういい!!勝手
にすれば!?私は“あなたのため”ではなく、
“私の大好きなジュリアを守るため”に戦
うわ!!それで良いんでしょう!?」
「………………………………すまない。」
は血がにじむ程きつく唇を噛み
締めると、逃げる様に駆け出した。
「??どうかした??」
「!?………あぁ、ギーゼラ。ごめん、少しぼっとし
てた。」
「大丈夫?なんだか、今日のあなたの魔力はとても不安定だわ。あまり無理
はしないでね?」
「えぇ…………。」
私たちの部隊は血盟城の警護を任
されていた。
戦場の中心地からはまだ大分離れており、比較的安全な場所だった……………………
はずだったのに。
「報告します!!奇襲です!!
西の方角より、敵軍…………1万!!」
「なんですって!!??」
青い顔をした兵士が大慌てでのいる指令室に駆け込んできた。
その知らせを受け、急いで城の西側に回ると、既に西門は敵に包囲されていた。
「そんな馬鹿な!!ほとんどの部隊が出払ってていないのよ!?冗談じゃな
い!!
うちの隊がたちうち出来る数じゃないわ!!」
まさか、いきなり血盟
城まで責め
込んでくるとは夢にも思っていなかったシュトッフェルは、
ほとんどの部隊を各地の
戦場に派遣していたのだった。
「…………くそったれ!!だから
城の守りは厳重にした方が良いって、助言してやったっていうのに、
あんのタヌキ親
父!!!!」
は、はらわたが煮え繰りかえる思いで、罵声を吐い
た。
『ならば、お前の部隊がここに残れ、卿。お前の力があれば十
分だろう。』
若い女の指図など聞く気もないといったシュトッフェルの態度
を思い出し、は壁に拳をぶつけた。
その時、脳裏にコンラートの台詞
が頭をよぎった。
『ルッテンベルクの誇りをかけて』
「……………………私だってルッテンベルク師団の一員よ!!戦っ
て死ねるなら本望だわ!!」
そう言うとは、愛剣の柄に手をかけた。
「、待って!!あなた一人でどうこう出来る数じゃないわ!!」
「1人ではあり
ません!!」
ふと気付くと、沢山の兵士がたちを囲んでいた。
「!?あなたたち、コンラートに付いて行ったんじゃ!?」
よ
く見るとその兵士達は、皆、ルッテンベルク師団の隊員だった。
「コンラー
ト隊長から、あちらの兵数を削ってでも、様を守る様に、との指令を受けまし
た!!」
「コンラートが!?」
『、これだけは
忘れないで。君は俺が必ず守るから…』
幼い頃にかわした約束
が蘇る。
「元より我々は、あなたに忠誠を誓っております!!これからはあ
なたが私たちの隊長です!!
いかようにもこの体、自由にお使いください!!」
「………………………………っ!!」
は、次から次に溢れて止まらない涙を、唇を噛んで必死にこらえた。
あぁ、何故今まで気付こうとしなかったのだろう?自分
はこんなにも幸せだったのに!!
愛する人も、自分について来てくれる仲間もこんな
にも沢山いる。怖いことなんて全くなにもないじゃないか!!
『コンラート…………私は、世界中の誰より
もあなたを愛しているわ。』
は心の中
でそっと呟やくと、まだ止まらない涙を無理矢理ぬぐった。
「…………
わかりました!!ルッテンベルク師団の意地を見せてやりましょう!!
ここに骨を埋
める気でついて来なさい!!」
「おおおおおおおおおお
おおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!」
の叫びに兵士たちが答えた。
「!?」
「ギーゼラ、あなたはジュリアをお願い!!2
人は負傷者の回復に専念して!!」
それだけ言うと走り出そうとした
だったが、途中で一度立ち止まるとギーゼラに駆けよった。
「……………………ギーゼラ。」
「??」
はきつくギーゼラを抱
き締めた。
「…………私、あなたが大好きだったわ。何があっても、私たち
は変わらず親友よ。」
「!?そんなこと言わないで!!」
「…………ジュ
リアに伝えて。必ずコンラートに幸せにしてもらうのよ!!って、
たっくさん子供を産ん
で、素敵な家族を作って!って!!」
……………本当は、私がそうでありた
かった。
花が咲き乱れる庭、そこを走り回る沢山の可愛い子供たち。そし
て、その傍らで優しく子供たちを見守る素敵な父親。
……………本当
は、その横にいるのは自分でありたかった。
コンラートに始めて恋
をしたあの瞬間から、一体何度夢に見ただろう?
本物の家族に恵まれなかった自分に
とって、何よりも恋こがれてならなかった、 たった一つの大切な願い。
「そんなもの叶わなくったって、私は十分幸せだったわ。」
は独り言の様にそう呟くと、今度こそギーゼラに背を向けて走り去っ
て行った。
ーあ
なたの方こそ、これだけは決して忘れないで?私があなたを愛しているということをー
[あとがき]
とうとう核
心に差し掛かりました!
ジュリアは原作とは違う末路を辿りますが、君マ設定というこ
とでご容赦ください。