「お前、俺と一緒に来るか?」
そう
言ってさしのべられた手は、例えようのないくらいに、暖かかった。
私は3歳の時に、道端に倒れていた
所をダンヒリー叔父様に拾われた。
それ以前の記憶は全くなく、自分は何処の誰なの
か、ずっと知りたいと思っていた。
でも、今はそんなもの必要ないと思う。
だっ
て、私は、=だけど、ダンヒリー=ウェラーの娘である自分は、
“=ウェラー”でもあるのだから。
「コンラート、この子
が新しい家族だよ。、これが俺の息子だ。」
そう言って紹介された彼
の息子は、サラサラの茶色い髪と、
くりくりの丸い瞳が印象的な可愛い少年だった。
「この子は、=っていうらしい。ワンピースの下に刺繍して
あったんだ。
お前よりち
ょっと年下みたいだし、仲良くしてやれよ!!」
そう言うと叔父様は、私と
コンラートの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「あ、えと、俺はコンラート。
よろしく!」
流石のコンラートも、まさか父親が女の子を拾って来るとは思
わなかったらしく、珍しく動揺していた。
「コント?」
「コンラー
ト!」
「コンラト?」
「コ・ン・ラ・ー・ト!!」
「はははははっ!!」
私とコンラートのやりとりを黙って見ていた叔父様が、急に笑い出した。
「もう“コンラト”で許してやれって。まぁ、その内言える様になるさ。」
「…………もうコンラトでいいよ。」
ちょっと不満そうに溜め息をつい
たコンラートを、叔父様は満足そうに見つめていた。
それが私たちの最初の出会いだった。
「わああああ
ん!!!!コンラト〜!!!!」
「!?、その顔、
一体どうしたんだ!?」
「……っく……ひっく…悪魔〜って、知ら…ない子に…ひっ
…卵ぶつけられて、ひっく」
「何だって!?……………………ごめんな、守ってやれ
なくて。怖かっただろう?本当にごめんな?」
その頃、コンラートは叔父様
に剣を習い始めたこともあり、あまり私の相手をしてくれなくなっていた。
それで暇
をもてあました私は、一人で街をうろうろすることが増えていた。
その度に怪我をし
て帰って来る私に、コンラートは勝手に出歩かない様に注意を払っていたが、
少し目
を離すといなくなる私にすっかり困り果てていた。
「違う!!コンラト
悪くないよ!!が黒いからいけないんだよ!!」
「違う!!は悪くな
い!!」
私は、幼いながらも、黒い髪と瞳のせいで自分がいじめられている
と、何となくわかっていた。
「、いや!こんな髪の毛、いらない!」
いつもそう言って泣きじゃくる私を、決まってコンラートは悲しそうな顔で慰
めた。
「嫌いなんて言
うなって。大賢者様とおそろい何だぞ?俺は、の髪はとっても綺麗で素敵だと思う
よ。」
「“だいけんじゃさま”よりコンラトとおんなじが良い〜!!」
「はぁっ…………まいったなぁ。」
コンラートでさえ手が付けられなかった私の“髪”
へのコンプレックスは、
もう少ししてから、とある1人の少年によってすっかり消し
去られてしまうのだが、それはまた別のお話…………
たまにいじめられて、悲しい思いをしたりし
たけど、今思い返せば、
どれもこれもが光輝いていて、夢の様に幸せな日々だった。
彼らの側にいられるだけで、涙が出るほど幸せだった。
ダンヒリー叔父様は、私をコ
ンラートと同様に、実の娘の様に育ててくれた。
ある日突然、私がヨザックを拾って
帰った時も、コンラートは『犬や猫じゃないんだから』と呆れていたけど、
叔父様は
『これまたえらいもん拾って来たな〜!!』と笑って受け入れてくれた。
私は叔父様
を本当の父の様に思っていたし、大好きだった。
……………………でも、幸せな日々は長くは続かなかった。
私とコンラート、ヨザックは魔族の血が半分流れているため、時の
流れが圧倒的に遅い。
でも、普通の人間である叔父様だけは、当然そうであるはずがなく、
私が成人の儀を行う時には、もうすっかり昔の面影は失われていた。
そんなある日、私は叔父様の部屋に呼ばれたのだった。
「…………………………………………なぁ、。俺は
お前を実の娘だと思ってる。」
「どうしたの?急に。」
突然、真面目な顔でそんなことを言われ、照れ隠しにはそっけなく答えた。
「…………
コンラートのこと、好きなんだろう?一人の男として。」
は、真っ赤
になってうつ向いた。
「本当は、最初にお前を拾った時に、=ウェ
ラーにしてやろうと考えてたんだ。
でもお前が『コンラトのお嫁さんになる
〜!!』って言い出した時に、それも良いなって思ったんだ。」
「……………………
それっ
て??」
「“息子の嫁”だって“娘”に変わりはしないさ。その方がお前達にとっ
て、幸せな道だと思ったしな。」
「なっ!!でもあれは小さい頃の話しで!!コン
ラートだって、もうきっと忘れてる!!」
「いぃや。俺は覚えてると思うね。」
叔父様は楽しそうにニヤリと笑った。
「………………………………、俺はもう長くない。」
「!?」
「だが、思い残すことは何もない
よ。ツェツィーリエと出会い、コンラートを授かった。
とヨザックにも恵まれた。
幸せな人生だった。」
は言葉を返すことが出来ずに、ただ、うつ向い
ていた。
「俺がいなくても、もうお前達は立派に生きていける。だろう?」
叔父様は私の頭をそっと撫でた。
「、お前は泣き虫だが、強い女だ。でも、逆にコ
ンラートは、虚勢を張ってはいるが、変にもろい所がある。」
ダンヒリーは、真剣な瞳で
を見つめた。
「お前に、コンラートを支えてやって欲しい。」
ダ
ンヒリーの話を黙って聞いていたは、静かに
口を開いた。
「…………私は、一生コンラートの為に生きる、と決めていま
す。
でも、それは、コンラートの伴侶になるということとは別だと思っています。」
は少し寂しそうな顔で、はっきりとそう答えた。
「でも……………………」
「でも?」
「私が“愛している”のはコンラートなの。もしも、
私が妻となり、母となる時が来たとしたら、コンラートしかいないと思ってる。
私の帰る
場所は、いつだって彼だけよ?でも、彼だっていつか本当の恋をするわ。そうしたら私は
…………」
「身を引くのか?」
は目をつむってうなずい
た。
「…………損な性分だな。だが、俺は例え何度すれ違ったとしても、
最終的にはコンラートにはお前しかいないと思うよ。あいつの帰る場所はお前だ
よ。」
は耐えられずに、ダンヒリーに抱きついた。
「まったく、お前は本当に泣き虫だな。
…………心残りといえば、ただ一つ。やっぱ
りお前の花嫁姿は見たかったな。」
「私、昔は、本当は、コンラートじゃなくて、お父さんのお嫁さんになりたかったの
よ?」
「…………それは光栄だ。」
叔父様は、私の涙を拭いながら、本
当に嬉しそうに微笑んだ。
私が彼を“お父さん”と呼んだのは、その、たっ
た一度だけだった………………………………
「お父さん、久しぶり。私、結局帰って来ちゃった。」
はダンヒリー
の墓石に花束をたむけた。
「……………………ごめんなさい。あの時の約
束、守れそうにないわ。
コンラートは、一生の人を失ったの。……………………私
なんかじゃ、彼女の代わりにはなれないわ。」
は墓前にしゃがみ込むと、声を噛み殺して静かに
泣いた。
どれ程時間が
たったのだろう?
辺りはとうに日が沈み、暗闇に包まれていた。
カサッ……………………
人の気配を感じたは、ゆっくり
と振り返った。
「……………………コンラー
ト…………」
ーお父さん。いつか私たちも、
2人一緒にそっちに行くから、だからそれまで私たちを見守っていてね?ー
[
あとがき]
そろそろタイトルのネタが尽きて来ました(汗)
こっそりココでネタを大募集し
ようかな(笑)
君マ導入部はあと3話で区切ります。