あなたの片翼は、一人で飛んで行ってし
まった。
私の片翼は…………きっと初めからいないのよ。
「……………………親父の墓参りも
いいけど、何もこんな遅くに行かなくたって良いんじゃないか?」
コンラー
トはそう言いながらゆっくりと近付いて来た。
「とっくに日も暮れてるって
いうのに、部屋がもぬけのからだったから、驚いて城中探し回ったんだぞ?」
「……………………こっちに戻ってきてから、まだ一度も叔父様に会いに来てなかったから…………。」
「そうか……………………。」
『……………………………………………………。』
2人の間を、気まずい空気が流れる。
「……………………私、先に帰るね。」
「待て!!」
沈黙に耐えきれず、立ち上がったの腕を、コンラートがとっさに掴んだ。
「…………頼むから、ちゃんと俺の話を聞いてくれないか?」
コンラートは必死な面持ちでを見つめた。
「……………………??」
全く反応を示さないの瞳を、コンラートは心配そうに覗き込
んだ。
「……………………私、」
は、コンラートから顔
を背けると、ゆっくりと話し始めた。
「私ね、ジュリアが大好きだったわ。
ジュリアも、あなたも、私にとってかけがえのない存在だった。
だから、あなたたち
2人にどうしても幸せになって欲しかったの。」
は、コンラートに背
を向けたまま、なおも話を続ける。
「本当よ?幸せそうなあなたたちを見て
るだけで、私も幸せだったわ。
……………………でも、その幸せを壊したのは他でも
ない、私自身。」
「……………………違う!」
「違わないわ!!」
「私がジュリア
を殺したの。」
「違う!違う!!違うっ!!!!」
コンラートの悲痛な叫び声が、15年
前のあの悲劇を呼び覚ます……………………
斬っても、斬っても次
から次へと襲い来る敵。
自分のものか、他人のものかもわからない血がべっとりと付
いた軍服。
血と肉の油ですっかり使い物にならなくなった剣。
は、どう贔
屓目に見ても勝ち目のない戦場を、必死に駆け回っていた。
『駄目…………
そろそろ限界だわ…………目が霞んで…………きた…………』
致命傷は何と
か避けて来たものの、既にの体はボロボロだった。
『何だか、体の奥
底が、熱い…………?』
体力は、もはやほとんど残ってなどおらず、なんと
か気力だけで立っていた。
「!!」
「ギーゼラ!?」
霞みがかった視界の中に、見慣れた少女が映った。
「何でこんな所に!?ジュリアは!?」
「向こうで癒しの力で回復をしているわ。そ
んなことよりあなたの治療が先よ!!」
「私は大丈夫だから、2人は早く安全な場
所まで戻って!!
あなたたちはこんな場所にいるべきではないわ!!」
2人が言い争っていると、1人の兵士が、息もたえだえに叫んだ。
「隊長!!このままでは全滅です!!」
「ここで撤退して
も、私たちには帰る場所はない!!」
シュトッフェルのことだ、きっ
と、のこのこと負けて帰ろうものなら、
ルッテンベルクの兵を、全員奴隷にしたって
おかしくはないだろう。
「私たちには、勝って戻るしか道はないの
よ!!」
は、さっきから自分の中で“何か”が渦巻いて仕方が
なかった。
『力がコントロール出来ない…………?』
は、血だらけの自分の両手を見つめた。
「隊長!!新手の敵です!!」
「くっそぉ!!!!ちょっと待って!!
今考えるから!!」
『一体、どうすれば良い!?考えろ!!考えるん
だ!!』
は、必死に解決策を練ろうとするが、次々に襲いかかる敵の
相手だけで精一杯だった。
『力を解き放てば
良いのよ…………あなたにはその力があるのだから』
頭の裏に誘惑的な声が響く。
私の力…………??
「隊長!!伝令が来ました!!」
「今度は何だ!!??」
「ルッテンベルク師団が壊滅寸前だという情報が入りまし
た!!
……………………それと、コンラート隊長が消息不明だという伝令が…………
…………」
コンラートガショウソクフメイ??
その瞬間、私の
中で何かが弾けた音がした。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「!?駄目よ!!力を押さえて!!!!」
ギーゼ
ラが私を制止しようとする声も、その時の私には全く無意味だった。
体中か
ら、熱い“何か”が溢れ出して止まらない。
私は自分でも無意識のうちに、力を暴走
させてしまったのだった。
怒り、悲しみ、苦しみ、恨み、嘆きが、滅茶苦茶
に渦巻いて、胸を掻き乱す。
……………………正直言って、そのあたりからの記憶は
あいまいなのだ。
最後に私の瞳に焼き付いた
のは、私を抱き締めてくれるジュリアの柔らかな腕と、優しい微笑み。
『、大丈夫よ。
大丈夫。』
次に気が付くと、
真っ白な天井と、心配そうに覗き込むギーゼラの顔が目に入った。
「………
ギ…………ゼ………ラ?」
「良かった、気付いたのね。あぁ
、まだ起き上がらないで!!力を使い果たして動けないはずだから。」
「力……………………」
肩越しに見えた、敵も味方もかまわずに暴走する魔力。
「!!!!ル、ルッテ……ンベルク…」
「、落ち着いて!!アル
ノルド“も”勝ったわ。コンラートも、ヨザックも無事に帰って来た、
あなたが心配する
ことは何もないの。」
「……アルノルド“も”?」
「……………………私たちも
勝ったのよ。あなたのおかげでね…………」
ギーゼラは、笑顔を作ってはい
るものの、複雑そうな顔をしていた。
「…………そうよ、ジュ、ジュリア
は、ジュリアは!!??」
「………………………………。」
ギーゼラ
は、無言で首を横に振った。
「……………………嘘、嘘、嘘、嘘よ!!
嘘だって言って!!」
は、ギーゼラにすがりつくと、大声で泣
き叫んだ。
「……………………。」
ギーゼラは、優しく
を抱き締めた。
その時だった
キィ……………………
「申し訳ないけど、は今面会謝絶
で……………………コンラート……………………」
ドアの方を 振り返ったギーゼラは、思わ
ず息をのんだ。
その時のコンラートは、それまでの彼と、まるで顔付きがち
がった。
ーあの時死ねば良かったのは、
本当は、私の方だったのにー
[あとがき]
次回
は甘々コンラート好きさんには厳しいやもしれません(汗)かなり暗い話が続きます。