嫌いになれるはずない。
憎めるはず がないのよ。











 23 偽りの恋人














捕らえられた私と グウェンが連行されたのは、法力が満ち溢れる石造りの裁判所だった。


「こ こじゃ私たちの魔力は通用しなさそうね。」


恐らく法力で結界でもはってあ るのだろう。
そこら中に嫌な気配が漂い、私もグウェンも満足に体を動かすことさえ ままならない。


「入れ。」


私たちを誘導していた兵隊に突き飛 ばされてホールに足を踏み入れると、
そこは所謂、裁判所でいう法廷という場所だっ た。
恐らく判事であろう四人の老人たちが、皆、一様の表情で私たち二人を見つめて いる。


「磯野●平と磯●舟と言ったな。その様子だと、どうやら二人とも相 当な魔力の持ち主らしい。
 この館は法力の源で厳重に守られているから、かなり辛 いだろう。手早く済ませてしまおうか 。」


唇を噛みしめながら必死に体を支え合う私たちを見て、判事のうちの一 人がそう切り出した。


「お前たちは駆け落ち者ということだから、その枷を 外しても良いように、互いに正当な相手と正しい家庭を築くことを誓うんだ。」
「は??いや、正当な相手と言われても私たちは」
「お前たちとて、この様な目に遭 うと知っていればこのような良からぬ関係になど陥らなかったろうに。」


そ の裁判官は、私の抗議など全く耳に入っていないといった様子で、
自らの人生観と、 男女、時には同姓関係の概念について思う存分まくしたてた。
それは全く他の相づち も許さずに、数分間にわたって続いた。


「と、いうわけで、お前たちの行為 がどれだけ愚かなことであるか骨身に染みて解ったろう。
 では、互いにどれだけ憎 むようになったら聞かせてもらおうか。」


「は??」


全くわけ が解らない。


いくら長々と諭されたからといって、駆け落ちまでするほどに 互いを愛していた二人が、
そんな数分で憎みあえるはずがない。


この解らず屋にちょっとひとこと言っ てやりたい気分だが、今は手錠を外させるのが先決である。


今にも倒れそう なグウェンのためにも、心を入れ替えた二人になりきってバカな芝居をしてみる他なさそ うだ。


「はい。おっしゃる通り、本当に浅はかな行為でした。凄く反省して います。ね??」
「あぁ………………」


グウェンダルは、今にも消え入 りそうな声で小さく同意の声をあげた。


「この人ったらすぐに怒るし、少し 仕事が遅れただけで散々嫌み言うし、いっつも眉間に皺寄せてるし!!」
「最後のは 関係ないだろう………………」


グウェンダルは少し恨めしそうな瞳で を見上げる。


「それに、私の可愛いユーリには意地悪するし!!………………でも」









でも、本当はよく知っているわ。


グウェンが本当はどれだけ優しいか。
どんなに私を愛してくれている か。


いくら仕事が 遅れても、私が終わらせるまで必ず待ってくれていることも。
ユーリに冷たくあたる ことも、全てユーリのためを想ってしているということも………………









「………………そうよ、私がグウェンを嫌い になれるはずがないのよ。だってこんなに、こんなに大好きなのに………………」
「私も同感だ。を憎めと言われても、今まで大切に想っていた相手をそう易々と嫌 いになれるはずがなかろう。」


そのグウェンダルの台詞に、は胸が熱 くなるのを感じる。


そうだった。
幼い頃からずっと、グウェンダルは自 分を暖かく見守ってくれていたんだ。


まるで本当の“兄”のように。
時 には“父”のように。
そして、時には一人の“男性”として自分を愛し、慈しんでくれていた。









「“グウェン”と“”が何 からわからんが、先ほどから話を聞いていると、
 お前たちが決別しそうには到底見 えないな。」


黙りこくってしまった私た ちに痺れを切らした判事は、私たちの足元へ細長く輝く短剣を投げて寄越した。


「どちらでもいい。それを使って、刺しなさい。」
!?
「例え死んでも責任は問わない。不実な関係を終わらせるんだ。お前たちだって早く 鎖を外したいだろう?
 早く済ませてしまおうじゃないか。」
何を馬鹿な ことを!!


この連中は頭がおかしいんじゃないか!?
頭に血が 昇って言葉にならない私の右手に、ふと何か冷やりとする物があてがわれた。


「グウェン!?」


もう立ち上がる気力もないのか、グウェンダ ルは私に剣の柄を握らせると、膝をついたままこちらを見上げた。


「別に奴 等も殺せとは言っていないからな。お前の腕は信用している。なるべく楽に済むように頼 んだぞ。」
「グウェンまで何を言ってんのよ!?」


確かにグウェンダル が言っていることも一理ある。
二進も三進も行かないこの状況下においては、適当に ちゃちゃっと済ませて 早く鎖を解くのが一番の得策だ。
特に剣で腕を慣らした自分にとっては、後遺症も何 も残らないよう軽く切りつけるなどわけはない。


でも………………









「………………出来ないわ。」
!!」
「私には出来ないわ!!だっておかしいもの!!私にはあなたを切る理由が ないわ!!
 どうしてもって言うならグウェンがやったらいい。出来る??グウェンは私を 刺せるって言うの!?」
「いや………………」


グウェンダルはゆっくり と立ち上がると、そっとを抱きしめた。


「私にも出来そうにない な。」


そう言っての手から短剣をそっと奪うと、大きく放射線を描く ように床に投げ捨てた。


「グウェン、もう行きましょう。他を探して 切ってもらうしかないわ。
 いつまでもこんな所にいたら、私たちまで頭がおかしく なっちゃいそう。」
「待ちなさい!!警備兵、拘束しろ!!」


判事 の焦った叫び声を皮切りに、急に室内が騒が しくなる。


「くそっ!!」


今の状況での戦闘は、どう考えても 私たちの分が悪い。
武器一つ所持してない上、法力のせいで体も思うように動いてく れない。


朦朧とする意識の中、先ほどの短剣を武器代わりに拾おうとして振 り返った瞬間、首筋に冷たい痛みが走った。


すぐに視界が暗くなり、何も考 えられなくなる。


!!


遠くで誰かが呼ぶ 声がした。
きっとグウェンだ。
グウェンが私を心配してくれてるんだ。


でも









私は、何だかコンラートが 呼んでいるような気がした。



















ー 私の選択は決して間違ってなんてない。間違ってなんていないわー



















[ あとがき]
ネタが出て来る時はするする出て来るんです(何で言い訳くさい のさ)
はい、珍しく続けさまに本編UPしてみました。
何で急に本編やる気に なったかと言いますと、
50のお題がもう終わっちゃいそうだからです………………
確かあと5つ、6つ位だったはず。
なんで、本編いかないく所ないって感じなん です(汗)
はい、頑張ります!!
とりあえず今回でグウェンダルとの鎖が外れちゃ うので、
“偽りシリーズ”(いつシリーズ化してん)はおしまいです(笑)









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