忘れていた感覚が蘇る。
15年前 の、あの悲しい日の記憶が蘇る。











  24 見捨てられた光














グウェンダルと引き離された私が連れて来られた場所は、罪を犯した女たちが収容される 寄場だった。


辺り一面に広がる岩山と砂の所々に開いた穴の中から、斑や金 に光る法石を堀り出し、
選別をしては袋に詰めるといった作業がここでの女たちに与 えられた仕事らしい。


「あんたの相手は監獄に送られたんだって?ってこと は、相手の男は最後まであんたへの愛を貫いたんだね。
 そこまで愛されてて、あん たは本当に幸せものだねぇ」


俗に言う、牢名主であろう女がそう言った。


実際には彼女の言った通りではないけれど、それもあながち間違ってはいな いと思う。
監獄に送られたグウェンダルは、きっともっと辛い仕打ちにあっているに 違いない。


私は簡単な労働だけ で済んでいるが、男のグウェンダルはそんな甘っちょろい仕事だけでは済まないだろう。


いつまでもここにいたって仕方がないのは判ってはいるが、正直、今の私に はどうすることも出来ない。


「ほんっと、自分のふがいなさに涙が出てくる わ。」


“ユーリは必ず自分が守る”
そうコンラートに豪語しておいて、 結果的にはユーリを頼りにならない少女と二人きりにしてしまった。


「ユー リ、無事だといいけど………………」


しかし全く土地勘のないこの場所で、 果たしてユーリが安全でいられる所などあるのだろうか………………









「………………?」


そんな事を 考えながら、袋詰めされた法石の俵を抱えて運んでいる途中、奇妙な光景に出くわした。
看守の一人が小脇に包みを抱え、もう一人は砂混じりの土にシャベルを突き立ててい る。


「そこの新入り!!何をぼ〜っとしている!!早く持ってこい!!」


私を先導していた男が、歩みを止めた私にそう怒 鳴り出す。
男の言葉に従って、慌てて向きを変えたその時だった。









タスケテ──────────









「………………?」


何か が聞こえた気がしてふと振り返ると、丁度看守が先ほど掘っていた小さな穴に、
脇に 抱えた包みを地面に降ろしている所だった。


「………………あれ」


ほんの一瞬、その小さな塊が微かに動いたように見えた。


「ちょっと、それ」


不審に思って駆け寄ろうとしたその時だった。
作業 場から女たちの叫び声が聞こえたかと思うと、腰を鎖で繋がれた数人がこちらに向かって 走ってきた。


「ちょっと待って!!その赤ん坊はマルタの子だろう!?実の 母親がその子は生きてるって言ってるんだよ!!」


牢名主が看守を止めよう と声を張り上げるが、追いかけてきた別の看守が必死に女たちを止めにかかる。


生きているの!!生きているの!判るんだよあた しには!あたしの子供だから!


そう叫びながら必死に駆け寄ろうと する女………………恐らく先ほど牢名主が言っていたマルタだろう。
別の看守が彼女 を雁字搦めにしている隙に、
包みを抱えていた看守が、その包みを穴に向かってほり 投げた。


待って!!


考えるより先に体が動いて いた。


確かに動いた。
あの子はまだ生きている!!


今にも 地面に激突してしまうかというギリギリの所で、指先に微かに白い布の感触がした。
その感触を頼りに、思い切り自分の胸に抱え込む。


「暖かい………………」


薄い繊維越しに、微かな温もりが伝わってくる。


「まだ死んで なんてない!!この子はまだ生きて………………」









赤ん坊の体調を確かめようと、体を包んでい た薄布を一枚一枚めくり取ったその瞬間、
衝撃と絶望と困惑で思考能力が一瞬途切れ た。









「………………何をした?」


包みの中から顔を出した赤ん坊は、微 かに呼吸はしているものの、体全体が赤黒く変色し、右手と右足が不可解な方向によじれ ていた。









脳の髄まで電撃が走ったように体が 痺れ、体中をドロドロとしたものが走り回る。


体の奥で黒いモノが煮えたぎ る。



















チカラヲボウソウサセテハダメ



















また同じことを繰り返してしまう。
15年前の“あの日”と同じことを。









デモモウトマラナイ









『ジュリア………………ごめん………………』









懐かしい香りがする。
そうだ、 ジュリアが好きだった花の香りだ。


目の前に真っ白な世界が広がる。
そ う、“あの時”のジ ュリアの色が………………



















ー 今も記憶に残る優しい香り、優しい色。もう二度とは戻らないものー



















[ あとがき]
何ですかねこれは………………
もう完璧にジュリア夢ですねこれは(汗 )
コンラートのコの字も出てきてないです………………
そして今編集作業してたら気付きました・・・名前変換が1度もないことに・・・(ダメじゃん)









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