私の一番はずっとコンラートだった。だから私もコンラートの 一番になりたかったの。
7 恋の 終り
私とコンラート、そしてヨザッ
クは、人間と魔族のハーフが生活するルッテンベルクで一緒に育ち、
成人すると同時に軍
に入隊した。
私は女だったけれど、強い魔力と幼い頃からコンラートやヨザックに
鍛えられた剣の腕をかわれ、
他の兵士達と同等に扱われた。
とはいえども私は、 コンラートの命令により剣で戦う事は滅多になく、遠くからの攻撃や仲間の回復がほ とんどだった。
………いつからだったろうか?いつも優しく、笑みが絶えなかっ た彼から、心の余裕がなくなったのは……。
今思えば、沢山の兵士の命を預かる
者としての責任感と、
ヒトを斬り、殺めるという行為への苦悩を全て背負い込んでいたの
だろう。
そんな彼の苦しみをよそに、当時の私は成人の儀は終ったとはい えまだまだ子供で、自分の事で精一杯だった。
「あ、コンラート!!ちょっと待って!!」
は廊下で偶然見か けたコンラートを呼び止めた。
「……あぁ、か。」
「あのね、明日な んだけどね『、悪いけど』
コン ラートはイライラした口調で怒鳴った。そして、自分をなだめる様に小さく溜め息をつい た後、低い声で続けた。
「今日は、凄く、疲れてるんだ。 遊びの約束ならまた今度にしてくれ。」
「……あっ……うん……そっか。そ…だ よね。……ゴメン、何でもない!」
はコンラートの 予想外の反応に、同様を隠せなかった。
そんなの様子は気にも止めずに、コン ラートは足早に立ち去ってしまった。「……明日、私の誕 生日だから一緒にいて欲しかったんだけどな……」
はコンラートには届かないとわかってはいても、そう小さく呟かずにはいられなかった……。
日に日にコンラートの疲れは顔に出ていき、誰の目にも彼が無理をしているのが 見てとれた。
ところがある日を境に、コンラートの表情が徐々に明るくなっていった のだ。
はほっとすると同時に何だか胸騒ぎを覚えた。
『……何だか嫌な予感がする……』
その予感は最悪の形で的中してしま うことになる。
『あ、コンラート!!……と、綺麗な女の 人……』
が血盟城の庭でコンラートを見かけて駆け寄ると、美しい女性が コンラートの側にたたずんでいた。
コンラートはがいる事に気付き、手招 きをした。
「、紹介するよ。噂には聞いた事がある
と思うけど、白のジュリアこと、フォンウィンコット卿スザナ=ジュリアさんだ。
ジュリア、こっちは前に話した、=だよ。」
はその瞬間、心臓まで氷ついてしまった。
コ ンラートの ジュリアを見つめる温かな眼差し、口には出さずとも伝わる優しい空気。
『コンラートはジュリアさんが好き なんだ……』
その後もコンラートは 何か喋っていたが、の耳には全く入っていなかった。
ただ、自分の幼い恋 の突然の終りに呆然と立ち尽すだけだった。
その後しばらくして、はコン ラートの命により、ジュリアの部隊に転属になる。
『、どうかお前の力で俺の代わりに彼女を守ってやってくれ。』
追い討ちをかけたコンラートの残酷な声が今もを苦 しめる。
最初は失恋の痛手のせいか、どこかぎこちなかっ
たも、ジュリアの人柄に触れているうちに、
自身も急速にジュリアに惹かれ
ていった。
例えるならジュリアは“母”の様な存在だった。
優しくて、温 かくて、ジュリアの側にいるだけで心が癒された。
親に捨てられ、ダンヒリーに育てられたにとって、始めて心を許せた“女性”で あった。
ジュリアの方もまた、子供っぽさが抜け切らない、明るく朗らかなを まるで実の妹の様に可愛がってくれた。
『コンラートが惹かれるのも無理ないね。』
はただただ寂しかった。
ずっとずっとコンラートのことが大好き だったけど、ジュリアも同じ位に大好きなのだ。
は、コンラートが好きに
なった人がジュリアであることを嬉しいと思う気持ちと、
決して捨てることなんて出来な
い自分の恋心の間で苦しんだ。
本当はコンラートにも自分と同じだけ想いを返し て欲しかった。でも……
「そんなの関係ない。」
愛する人達が幸せならそれで良い。
私はきっと、コ ンラートのために、そしてジュリアのために死のう。
唇を噛み締めて必死の決意 をしたをあざ笑うかの様に、運命の歯車は回りはじめる。
そして“あの”悲劇が起こる。
ー幸せだった時間はもう戻らない。大切なあの人ももう
戻らない。ー
[あとがき]
今回急激に核心に迫ったので次回からしばらく番外編に行きたいと思います。
主人公とムラケンの出会いや、コンラートたちの子供時代、主人公とヨザの話…などなどいろいろ考えてます。