『
、愛してる。』
『景吾………………私もよ。私も愛しているわ。………………
でも、でも!!』
『………………でも?』
『でも、駄目よ。駄目!!………………あなたはだけは、決して好きになってはいけないの!!』
『そんなこと、一体誰が
決めた!!俺は諦めねぇ!!』
『だって、だってあなたと私は………………』
episode3 desire not permitted
「………………またこの夢………………」
重い目擦りながら起きあがり、枕
元の時計で時間を確認すると、
もう一度ゆっくりと体を横たえる。
「………………朝練、行かなきゃ………………」
自分にそう言い聞かせるもの
の、肝心の体は一向にいうことを聞きそうない。
「………………また………………跡部に怒られる………………のに」
睡魔に勝て
ず、再び意識がとろんとしてきたその時だった。
ピリリリリリリリリリリ─────────
枕元に置いてあった携帯が、激し
い音で鳴り出した。
『跡部景吾』
ディスプレイに写ったその名前を見た途端、
私は慌てて携帯を手に取る。
「も、もしもし?」
『俺だ。お前のことだ
から、どうせまだ寝てると思ってな。』
私の寝ぼけた声を聞いて、予想が当
たったな、と嬉しそうに笑い声をあげる。
『俺様がわざわざモーニングコー
ルしてやったんだ、ありがたく思え。』
「………………………………。」
『っ
て、寝るんじゃねぇ!!』
「寝てないよ………………朝っぱらから元気だ
なぁって思って。」
『とにかく早くこいっ!!いいな
!!』
素直な感想を述べた私の返事がお気に召さなかったのか、
跡部は少し怒りながらまくしたてると、一方的に電話を切ってしまった。
「もう、本当に短気なんだから。」
今のやりとりですっかり目
が冷めてしまった私は、仕方がなく制服に袖を通した。
春休みだというのに、私がマネージャーとして在籍している男子テニス部は、
毎朝欠
かさず朝練を行っている。
全国にその名を知られる名門、氷帝学園男子
テニス部。
莫大な数の部員がいるため、勿論マネージャーの数も、
他の
部に比べるとかなりの人数が在籍している。
が、
現在、レギュ
ラー専属マネージャーには、たったの一人しかいない。
私は、その唯一のレ
ギュラー専属のマネージャーをやっている………………
いや“やらされて”いる。
「おい、何ぼっとし
てる。早く俺様のタオルを持って来い。」
「はいはい。」
中等部
の頃は、私も選手として女子テニス部で、
部長なんてやったりしてた。
関東大会、最終戦であるシングルス3の試合中に起こった事故で、
腕を痛めたことか
ら選手生命を絶たれてしまうまでは………………。
最初は女子テニスのマ
ネージャーをかって出たものの、
長くは続かなかった。
彼女たちと同じ
様にテニスをプレイすることができない自分には、
過酷以外の何者でもなかったの
だ。
そんなある日、私のテニス人生に転機が訪れた。
『………………お前、男テニのレギュラー専属マネをやる気はねぇか?』
『………………男テニの?』
『最近、ミーハー心だけで入って来て、全く使えねぇ奴が多くて
な。
その点、お前なら安心して任せられるからな。』
そう言って跡部
は、私に右手を差し出した。
『お前は、俺様が全国に連れてってやる。』
『………………ありがとう。』
こうして行き場をなくした私に差し伸べてくれたのが、
他でもない、跡
部だった。
「鳳!!お前は、サーブ打った後の反応が遅い!!
宍戸一人に任せずお前も動
け!!」
「はいっ!!」
広いコートに、跡部のよく通る声が響きわた
る。
跡部は、今朝は亮ちゃん&長太郎ペアの練習指導をしていた。
「岳
人、やっぱお前はもっとスタミナつけなあかんなぁ?」
「なんだよ!!侑士だって、
息上がってんじゃん!?」
その横のコートでは、侑士と岳人がシングルスを
している。
『このペアは、やっぱり岳人のスタミナUPが最重要課題ね………………
侑士も、もうちょっとだけ反応が早くなるといいんだけど………………あ
れ?』
二人のプレーを観察していたら、何か少しおかしなことに気がつい
た。
『あ、岳人の靴紐、取れかかってる。』
恐らく、派手な動きをしているうち
に、少しずつ緩んでしまったのだろう。
岳人が跳ねる度に、紐が大きく揺れる。
「岳人!!くつひ………………、!?」
このままで
は危ないから岳人に教えようと、
ベンチから立ち上がった瞬間だった。
『ヤダ………………目眩が………………』
メノマエガマックラニナル。
『嫌だ!!怖い!!』
は、自分の体を支えきれずにゆっくり
とその場に倒れる。
コワイコワイコワイコワイコワイ!!!!!!
『けい………………ご………………!!
』
最後に絞り出すように、声にならぬ声で叫ぶと、はそのまま意識を手
放してしまった。
「?先輩、どうかしました?先輩!?
」
最初にぐったりとベンチに倒れこんだに気づいたのは、
ドリンクを飲みにベンチ
に戻って来た鳳だった。
「先輩!!」
「ちゃ
ん!?」
「おい!?大丈夫か!?」
鳳の尋常でない声を耳にした
メンバーが、慌てての元へ駆け寄る。
「どけっ!!誰も触るんじゃ
ねぇ!!」
跡部が大声でそう叫ぶと、忍足は延ばしかけた手をゆっく
りと引っ込めた。
「………………こいつは俺が連れていく。お前たちは練習
を続けてろ。」
跡部はそっとを抱き抱えると、そのままゆっくりとコー
トを後にした。
「珍しいな。あいつがあんなに感情むき出しに
するなんて。」
宍戸が物珍しそうに跡部
の背中を見送っていると、横から鳳が慌ててフォローを入れる。
「そ
りゃ、動揺もしますよ!!先輩が倒れるなんて、
今まで一度もなかったし………………」
「ちゃうな。」
「?どういう意味だよ?侑士。」
全員が
心配そうな顔をする中で、忍足だけが面白そうに笑っていた。
「あれは、ちゃんが“倒れた”事に動揺とるんちゃう。
ちゃんに“他の男が触ろうとし
た”ことに怒ってんねや。」
「は?」
「ま、俺もあっこまで跡部の独占欲が強い
なんて思えへんかったけどな。
ほんじゃ、俺らは部長さんの命令通り練習続けますか
☆」
「あ、あぁ。ちゃんは心配だけど、ぼ〜っとしてても仕方ないしな。」
「そう、ですね。」
「ま、跡部がいるから大丈夫だろ。」
皆は口々にそ
う言うと、各々の練習場に戻って行った。
ーあなたは夢の中でだけ私を愛しいと言う。私も夢の
中でだけあなたを愛しいと言うー
[
あとがき]
何かうちの忍足はやけに黒いですね………………(汗)
いや、好きで
すよ?忍足(笑)
タイトルは「許されない想い」です