『あのね、景吾。今日ね?』
──────────コンコン──────────
『失礼します。会長、お客様がお見えです。』
『あぁ、客間に通してくれ。すぐに行く。』
景吾はゆっくり席を立つと、優
しくの頭を撫でた。
『悪いな、。話はまた後でな。』
『………………うん。』
カナシイ………………
悲しい?
サミシイ………………
寂しい?
これは誰のキモチ?
私?
それとも………………?
episode4 in the dream
「?気がついたか?」
「………………景吾?」
が目を覚ますと、目の前には真っ白な世界が広がってい
た。
「………………保健………………室?」
「あぁ。春休みで保健医が
いなかったから、頼み込んで特別に鍵を開けてもらった。」
窓から外を眺め
ていた跡部はゆっくりとのベットに近づき、そっとの頬を撫でた。
「何があった?お前、寝ながら泣いてたぞ?」
「………………泣いて
る?」
慌てて自分の頬に手を当ててみると、確かにうっすらと濡れていた。
「………………夢を見ていたの。とっても悲しい夢………………ううん。
違う。私じゃない。私が悲しいんじゃない。」
「何を言ってる?」
訳がわからずにをじっと見つめると、は真剣な表情で跡部を見つめ
返した。
「あなたは感じたことない?自分の中のもう一人の自分を。」
「もう一人の………………自分?」
はこっくりと頷く。
「私の中の“彼女”が泣く
の。“景吾が恋しい”って泣くの。
寂しくて、切なくて、辛い、って泣く
の。」
「彼女?」
「夢に、決まっていつも男の人と女の人が出てくるの。
二人はお互いにとても想いあっているわ。」
は寂しげに目を伏せて、
きゅっとシーツを掴んだ。
「男の人の名は“景吾”。女の人の名は“”。
互いにそう呼んでいたわ。見た目も、私達そのままだった。」
「どうい
うことだ?それは、俺達だっていうのか?」
「私じゃない!!だって私には、そんな
記憶はないもの!!
景吾と寄り添ってお茶を飲んだり、手を繋いで中庭を歩いた
り、
私はそんなことしたことないもの!!」
「………………それじゃあ、それ
は何処の誰なんだ?」
「わからない………………でも、昔、おばあさまにこんなこと
を言われたことがあるの。」
『何だってあの
バカ娘は、自分の子供に“”だなんて縁起の悪い名前をつけたんだろうねぇ?
より
によって、同じ年に“景吾”が生まれたばかりだっていうのに。』
今、思い
出しただけでも恐怖で身がすくむ。
屋敷の中で自分を見つける度に、何かと意地悪を
言って来た祖母。
優しくしてもらった思い出なんて、何一つもない。
苦い記憶が
甦る………………
「あのババぁか………………どういう意味だ?」
「私
にもわからない。」
ただ、悪意の隠った言い方だった。
彼女はいつもそ
うだった。
忌々しいモノを見る様な目付きで私を見ていた。
「名前、か
………………そういやぁ俺の“景吾”って名前は、跡部財閥初代会長………………
何代前かはわからねぇが、要するに俺たちのじぃさんの名を受け継いだって、
聞いたことがある。」
「跡部財閥、初代会長………………?」
『失礼し
ます。会長、お客様がお見えになられました。』
「まぁ、関係ないとは思う
がな。そんなバカげたことが実際にあるわけ………………」
「
会長って呼ばれてた!!夢の中で、“会長”って!!」
さっき見た夢
の中で、スーツを着た男の人が、確かにそう言っていた!!
ということは、
やっぱりあの夢の中の“景吾”は、
今目の前にいるこの人じゃない、ってことなの………………??
「じゃあ、“”っていうのは俺たちのばぁさんの名前ってこ
とか?」
「………………それは、違うと思う。」
『あなただけは決して
好きになってはいけないの!!』
もし、二人の未来が約束されていれば、彼
女はあんなに必死にならないだろう。
「さん、言ってた。私たちは結婚
できない、って。」
「ってことは、愛人………………か?」
「………………かも
しれない。そしたら、おばあさまが“”の名を嫌う理由につながるもの。」
は、唇をきゅっと噛みしめた。
『あのバカ娘は嫁にやるべきじゃなかった
ね。
結局跡部の名を汚しただけで、何の役にも立ちゃしない。
おまけに産むだけ産んで、余計なもんを置いて自分は海外生活。
あれは私の人生
の唯一の汚点だね!!』
そんな祖母の台詞が
甦る。
「………………これは、詳しく調べてみる必要がありそうだな。」
跡部はちらりと時計を見上げると、ちっ、と小さく舌打ちした。
「もうこんな時間か。今迎えを寄越すから、お前は家に先帰ってろ。
俺は、夕方まで練習が残ってるからな。」
「………………跡部の“家”?」
は、不安気な表情で跡部を見上げる。
「あたりまえだろ
う。お前はまだ本調子じゃないんだ。
一人でほっとくわけに行かねぇだろう。」
跡部はジャージのポケットから携帯を取り出すと、慣れた手つきでボタンを
プッシュした。
「もしもし。あぁ、俺だ。至急車を回してくれ。そうだな、
裏門につけといてくれ。
が倒れたんだ。あぁ、じゃあよろしく頼んだぞ。」
そう言って携帯を切ると、再びジャー
ジのポケットに突っ込む。
「聞こえたか?今、裏門に車をつける様に言っと
いたから………………どうした?」
俯いているに、跡部は優しく声をか
ける。
「………………ねぇ、跡部?」
「何だ?」
「………………う
うん。やっぱり何でもない。皆に、心配かけてゴメン、って言っといて。」
「??あぁ。じゃあな。気をつけるんだぞ?」
「うん。ありがと。」
跡
部は最後に、優しく私の頭を撫でると、名残惜しそうに部屋を出て行った。
言えるわけない。
言えるわけないよ。
“スキ”だなんて。
言えるわけがないよ。
だって、だって、跡部を愛するこ
のキモチは、
ワタシノモノジャナイノカ
モシレナイカラ。
言えない。
ー
あなたへの想いは、
今も言葉に紡がれることなく、私の中で眠り続けているー
[
あとがき]
やっと本題に突入です(汗)
この話はやけにすらすら書けました☆
テニプリ夢のアンケートを行ってるので、そちらの方もよろしくお願いしますm(_
_)m
タイトルの和訳は「夢の中で」です。