確かめに行くの。
“あなた”が誰なのか。
確かめに行くの。
“私”が誰なのか。
確かめに行くの。
私のあなたへ想いが、
本当に“私のもの”なのか。
あなたを好きな
ワタシは、本当にワタシなのでしょうか?
アナタノヒトミニウツル、“ワタシ”ハ
ダレ………………??
episode5 eternal place
「お嬢様、お久しゅうございます。お倒れになったとお聞きしましたが、
お体
の具合はいかがですか?」
跡部の家に着いて、真っ先に私を出迎えてくれた
のは、
幼い頃から私と跡部の面倒を
よく見てくれた、執事のおじぃちゃんだった。
「ありがとう。もう大分楽に
なったから、あまり心配しないで。」
「それはようございました。以前、お嬢様がお
使になられていたお部屋はそのままにしてありますが、
そちらでお休みになられま
すか?」
「そのままにしてあるの?」
「えぇ。景吾ぼっちゃまが、お嬢様が
いつ帰って来られても良いように、と。」
一人暮らしを初めてもう3年。
私の部屋なんて、とっくになくなっていると思っていた。
「そう………………じゃあせっかくだから、部屋で休ませてもらうわ。」
「それでは、後ほどお部
屋の方に暖かい飲み物をお持ちいたしましょう。」
「ありがとう。お願いするわ
ね。」
そう言ってにっこりと微笑むと、深くお辞儀をするおじぃちゃんに背
を向け歩きだす。
不思議なものだ。
長く離れていたというのに、この家
の門をくぐった途端“跡部家令嬢”の自分に戻ってしまった。
「………………どんなに抗ったところで、
結局は私もこの家の人間、ってことかしら。」
は誰にも聞こえない様に
小さく呟くと、一人、部屋に向かって歩き出した。
「本当に、そのまま残してくれてたのね。」
意を決して部屋の扉を開くと、
私が部屋を出て行った時のまま時が止まってしまったかのように、そのままの姿で残って
いた。
「ちゃんとお花まで生けてある。」
窓際に飾ってある花
瓶には、が好きな淡いピンクの薔薇の花が飾ってある。
「毎日花を絶や
さぬように、景吾ぼっちゃま自らお花のお世話をしておられるのですよ。」
「おじい
ちゃん。」
ふと振り返ると、紅茶の用意を持ったおじいちゃんが扉の前に
立っていた。
「失礼します。ミルクティーでございます。」
「ふふ。お
じいちゃんは何でもお見通しね。」
「この家で何年執事をやっているとお思いです
か?お嬢様の好みは、ちゃあんと存じておりますよ。」
そう言
っておじぃちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
優しい人、優しい空気、優しい場
所。
少しだけそれに甘えてしまいそうになったけど、私は本来の目的を思い出し、
きゅっと唇を噛みしめる。
「………………ねぇ?おじぃちゃんは、若い
ときからこのお屋敷に勤めているのよね?」
「えぇ。亡くなられた大旦那様の代から
ですから、もう50年以上になります。」
「それじゃあ、“さん”を知ってい
る?」
「………………!?」
私がそう言った途端、おじぃ
ちゃんの表情が険しくなった。
「………………知っているのね?」
「………………そのご様子ですと、“あなた以外に存じません”と、
はぐらかせそうにはあり
ませんな。どこでお聞きになりましたか?」
「小さいときに、おばあさまが少
しだけそんなことを言ってたから………………」
「左様でございますか。」
おじぃちゃんは目で私にソファに座るように促すと、自分も私の向かいに腰
を下ろした。
「私も生まれる前のことですので、詳しいことは存じ上げないのですが
………………」
「どんな些細なことでも良いわ。お願い。」
「………………そう
ですね、何からお話したらいいでしょうか。
跡部財閥初代会長の名前
は“景吾”様。
そう、お嬢様がおっしゃられた通り景吾ぼっちゃまは、
跡部
財閥を一代で築き上げた初代会長の名を受け継がれました。」
そこで一旦言
葉をきると、おじぃちゃんは真っ直ぐに私を見つめた。
「そして、幼い頃に
両親を亡くした“景吾様”にとって、ただ一人の肉親である妹御のお名前が、
“”………………“跡部”お嬢様です。」
「妹………………。」
『あなただけは、決して好きになっては
いけないの!!』
「跡部………………………………。」
『“”だなん
て縁起の悪い名前を………………』
「お二人は、とても愛し合っていらっしゃったと聞きました。」
エェ、トテモアイシアッテイタワ。
「勿論許される恋ではございませんで
した。
でも、お二人はそれでも、とても幸せだったそうです。」
ソウ………………トテモシアワセダッ
タ。
「景吾様の結婚が決
まり、様がお亡くなりになるまでは………………」
タエラレナカッタノ。
アノヒトガ、
ホカノヒトノモノニナルナンテ。
そうだね。
辛かったね。
苦しかったね。
耐えられなかったんだね。
イトシイ
カナシイ
クルシイ
セツナイ
私の中で、イロンナ想いが溢れて止まらない。
目の前が暗くなる。
夢の中に誘われる。
『全てを教えてあげる。』
甘い囁きが聞こえる。
悲しい嘆きが聞こ
える。
私は、その悲しい気配に身を委ねる。
『全てを見せてあげる。』
全てを──────────
ー
翼を持たない私たちは、今も切望だけを胸に、必死にもがいて生きているー
[
あとがき]
予想外に早く終わってしまいそうです(汗)
本当はもっと長くやるつ
もりだったんですが、
10話くらいで終了予定です(>_<)
次からは、過去の二人
の話も織りまぜながら話を進めたいと思い
ます。
タイトルは「永遠の場所」です☆